きあえない」
 教授のことばに、こんどは川上の方がびっくりしてしまった。なんということだ。ジャンガラ星人は、植物の生命をそんなに重く考えるのか。しかし花の首を一本ちょっと切り落したくらいで極刑になってはたまらない。どうして山ノ井千ちゃんを救ったものか。ポコちゃんは大こまりであった。
 その間にも、千ちゃんは樹海の中であばれているらしく、いよいよさかんに林の上に葉っぱや花の枝が投げあげられる。
(そうだ。一刻も早く千ちゃんに会って、植物を切りたおすことをやめさせなければならない)
 ポコちゃんは、ようやくそこに気がついた。そこで教授に、そうすることを話してしばらくの時間を待ってくれるように頼んだ。しかし教授は、さっき[#「さっき」は底本では「さつき」]と変って、もういい顔をしない。にくしみにみちた目で川上をにらみつける。そこで川上は、しかたなく教授の前をだまってはなれた。そして一足大地をけると、土煙り、葉煙りのあがる林の中へとんでいった。
 いったい千ちゃんは、なぜそんならんぼうをはたらいているんだろうか。


   再会


 なつかしい友の姿を、樹海のうちに発見した。しかしその友は、すっかりのぼせあがって、まっかな顔をして、鉄の棒らしいものでまわりの草木をなぎたおしている。それを遠くからとりかこんで、このジャンガラ星人《せいじん》たちがわいわいさわいでいる。
 かけつけた川上少年は、この場のすさまじいありさまに、何から手をつけたらいいのか、ちょっと迷った。こんなことなら、カロチ教授の手をひっぱって、ここまでとんでくればよかったと思った。
 さかんにはやしたてる星人たち。みんな怒《いか》りの絶頂《ぜっちょう》にあることは、その顔色がエビガニ[#「エビガニ」に傍点]のように赤黒くなっていることによっても知れた。かれらは、だんだんと包囲の陣をちじめて、つかれをみせている山ノ井にせまっていく。このままでは、たいへんなことになる。川上少年は決心をして、もうひととびとんで、山ノ井のそばへおりた。
「千ちゃん。いったいどうしたんだい」
 川上は、山ノ井のうしろへよって、肩をたたいた。山ノ井は、はっと身をちじめ、おそろしそうに、うしろをふりかえった。が、その目はきゅうにかがやいた。
「おおポコちゃん、ポコちゃんじゃないか。それともぼくは夢を見ているのか……」
「夢じゃないよ。ほんとうだよ。ほっぺたをつねってみな、いたいから」
「待て待て」山ノ井は自分のほおをぎゅっとひねった。
「あいたたた。これはほんとうだぞ。よう、ポコちゃん。よくきみは生きていたね」
「生きているさ。ぼくが死ぬなんてことがあるものか」
「いや、ポコちゃんは死んだんだ。いや、殺されたんだ。殺されたところを、たしかにぼくは見たんだ。それは……」
 と、山ノ井がいいかけたとき、ジャンガラ星人たちが、びっくりするほどの近くできみょうな声を大きくはりあげた。
 山ノ井は、その方へけわしい目をむけ、星人たちをぐっとにらみつけた。
「来るなら来い。近よれば、この草や木同様、へし折ってくれるぞ」
 山ノ井千ちゃんは、鉄の棒をぶんぶんふりまわして、怒りのかたまりと化《か》している。
「千ちゃん。きみはなぜあの連中とけんかを始めたんだい。そのわけをきかせてくれない」
 川上はうしろから声をかけた。
「そのわけかい。そのわけは……」と山ノ井はちょっとことばにつまって、「……ポコちゃんが、こうしてぴんぴんして、ぼくのそばへ帰って来た今となっては、どうもへんなものだね」
「なにがへんなの」
「なにがへんだといって、つまりぼくはポコちゃんを、かれらの手からとりもどそうとして、ひとりでこうして奮闘《ふんとう》していたんだ。しかし、きみはぶじに帰って来たんだから、もうべつにけんかをしなくてもいいわけだけれど、なにしろさっきから両方でじゃんじゃんやったことだから、すぐやめるわけにもいかない」
「つまらないよ、そんなこと。すぐよした方がいいよ。それに、けんかなんて、いいことではないからね」
「そりゃわかっている。しかしかれらは、こわれたカモシカ号へずかずかはいって来ると、大けがをしているきみのからだを手荒くなぐりつけるやら、あのへんな手をきみの口の中へおしこむやら、らんぼうをしやがった。そしてぼくのとめるのをきかずに、大ぜいできみをさらっていってしまったんだ。ぼくはくやしいやら、腹が立つやらでね、すぐ追っかけようと思ったんだが、カモシカ号|墜落《ついらく》のときにひどく腰をぶっつけて痛くて立ちあがれないんだ。それでぐずぐずしているうちに、きみをもっていかれてしまった。ぼくがあばれだしたのは、それから十五分もたった後のことで、きみはどこへさらわれていったのか、さっぱりわからない。くやしかったよ。そのときは……
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