りに、タンポポの樹海のこずえ越《ご》しに巨大なラッパの頭のようなものが大小十何個、ぬっと出ている。まん中にあるものがいちばん太く、そのまわりに並んでいるものは外がわへいくほど細くなっている。ラッパだろうか。いやあんな大きなラッパがあるものか。では、煙突であろうか。煙突にしては、形がへんだし、あんなに一つところにあつまっている煙突なんて話に聞いたことがない。まるで、キノコ[#「キノコ」に傍点]がかたまってはえているように見えるそれは、まぶしく金色に光っている。
「あれは何ですか、カロチ教授」
 川上は、そばに立っている教授にきく。
「ああ、あれですか。あれはいま建設中の噴気孔《ふんきこう》です」
 教授は、大きな目玉をぐるっと動かして川上の方をみる。
「噴気孔ですって。それは何をするものですか。煙突ではないのですか」
「煙突ではない。噴気孔というのは、あそこから強いガスをふきだすのです」
「なんのためにそんなことをするのですか」
 ロケットじゃあるまいし、ガスを空へふきあげてどうするのであろうか。むだではないか。
「ロケットというものを知っているでしょう。あれですよ」
 教授のことばは意外だ。
「ロケット? どこにロケットがあるのですか。ロケットの噴気孔なら、空に向いていてはおかしいですね。ロケットの噴気はおしりから出るんだから、あのかたちではロケットは空へとびあがるどころか、ますます大地の中へもぐりこむではありませんか」
「ふふふ」と教授は笑った。
「あれでいいのです。なぜといって、あの噴気孔からガスをふきだせば、このジャンガラ星が前進するのです。おわかりかな」
「ええッ、なんですって」
 川上は、おどろいて聞きなおした。
「つまり、このジャンガラ星が自力で宇宙を旅行することができるように、あれをいま取付け中なんですわい。そうでもしないことには、ジャンガラ星はいつまでも月の周囲をぐるぐるまわっている劣等星《れっとうせい》でがまんしなければならぬ。それでは、われわれはとても満足できないですからね」
 教授は、大きな計画を語った。川上はすっかりおどろいてしまった。
「でも……でも、いくら豆つぶみたいな星でも、星を動かすには、たいへんな力がいるわけでしょう。その原動力はどうしますか」
「知っているじゃないですか、川上君。原子力というものを使えば、そんなことはわけなくできる
前へ 次へ
全46ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング