っこうは、まるで川をわたるときの足つきそっくりだった。
「あっ、しめた。一足、ちゃんと歩けたぞ」
たった一足だけ滑らないで歩けたことが、ポコちゃんにとっては大きなよろこびだった。そのちょうしで、彼は用心ぶかく、つぎの一歩をそれからまたつぎの一歩を、白い道路の上にふみだしていった。
が、また、すってんころりんと、ころんでしまった。そのわけは、ポコちゃんにはわかっていた。すこしゆだんをして、うっかり大地をけるように足を使ったのがいけなかったのだ。とたんにつるり、すってんころりであった。
「なんという道路だろう。まるで油をぬってあるように滑っちまう。しかし油なんか、けっしてぬってないんだがな」
道路を手でなでてみたが、油をぬったようにぬらぬらはしていないで、やはり大地はがさがさしていた。
「ふしぎだなあ。なぜ、歩くときだけ、滑ってしまうんだろう」
このことは、後になってはっきりわかった。それはこのジャンガラ星は重力が非常に小さい星であるために、摩擦《まさつ》もまた小さく、したがって地球の上を歩くような力の入れかたをしたのでは、すぐ滑ってしまうのだ。ジャンガラ星はたいへん小さくて月の一万分の一しかない豆粒星《まめつぶぼし》であったのだ。
そしてついでに書きそえておくが、このジャンガラ星はビー玉のように球形ではなく、乾燥したグリーン・ピースの、おされてすこしいびつ[#「いびつ」に傍点]になっているそれによく似ていた。そのことがジャンガラ星の宇宙運航の軌道《きどう》を、いっそう、きみょうなものにしているのだった。
そのことについて、もっとくわしく説明すると――いや、説明は中止だ。なぜといって、今空から一人の人間が、浮力《ふりょく》を失ったゴム風船みたいに、ふわりふわりと下りて来るではないか。しかもそれはポコちゃんがえんこしているすぐ前に下りてきそうなのだ。
どうしたんだろう。あまくだる怪しい人かげは、いったい何者であろうか。
あまくだる人かげ
あまくだる人かげの、みょうな姿よ。
ポコちゃんは、それに気がついて、ぽかんと口をあいてあまくだる人かげを見まもっている。
「空から人間が降ってくるとは、へんだぞ。翼《つばさ》も生えていないようだし、落下傘《らっかさん》を持っているわけではないし、なぜあんなにふわふわと、ゆっくり下りて来られるのかなあ。おや、
前へ
次へ
全46ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング