はしゃべれますが、乱暴な日本語をしゃべることができないのでしょう。
「なんだ、白状しろって。あっはっはっはっ、あまり俺を笑わせるない。ここは日本の領土ではないか。貴様たちこそ、こんなところで一体なにをしているのだ。さあ、それをまず俺に話すがいい」
小浜兵曹長は仁王《におう》のように突立ち、敵方の大将株らしい白人をぐっとにらみつけました。
敵方は、すこしうろたえはじめました。
3
「さあ、話せ。貴様たちこそ、日本の領土内で、なにをしているのか」
小浜兵曹長のおごそかな言葉に、兵曹長をおそった敵方は、いよいよもじもじしはじめました。
「どうだ、悪いと思ったら降参せよ。おとなしくすれば、なんとか助けてやろう」
と小浜兵曹長は、あべこべに敵方をのみこんでいます。
すると敵方の大将株らしい白人が、なにごとか、変な言葉でかけ声をかけました。
「うん、来るか」
敵方は、目を猿のようにひからせ、ふたたびじりじりと兵曹長の身ぢかくにせまってきました。
「アナタ、動くとあぶない。これが見えませんか」
敵の大将株の白人が、いきなりピストルを兵曹長の方につきつけました。
ピストルは、他の敵の手にも握られています。
「撃つのか。うまく中《あた》ったらおなぐさみだ」
兵曹長は、ピストルのおそろしいことなどを全くしらないようです。
相手は、自分を俘虜《ふりょ》にしたいのであって、殺すつもりではないことを、はやくも見ぬいていたからです。
果して、ピストルをもっていない十人ばかりの敵が、合図とともにどっと押しよせてきました。
「おお来たな。そんなに俺に投げとばされたいか」
兵曹長は、敵の来るのを待たず、自分からすすんで敵の一人にとびつき、
「やっ!」
と、あざやかな巴投《ともえなげ》で、相手の体を水車のように投げとばしました。
あとの敵は、不意をくらい、その場に重なりあって両手をつきました。それをみるや、兵曹長は栄螺《さざえ》のような拳固をかためて、手もとに近い敵から、その頬ぺたを、ぱしんぱしんとなぐりつけました。いや、いい音のすることといったら。――
4
小浜兵曹長は、海ばたで、十数人の敵を相手に、格闘をつづけています。
「どうだ、降参か!」
と、叫んでは投げ、どなっては投げ、敵の荒くれ男をころがしました。
ルパシカ男も黒人も、地上に匐《は》って、うんうんうなっています。
どーん。
どどどーん。
その時です。銃声が大きくひびいたのは。――
「ううむ」
小浜兵曹長は、ばったり砂上にたおれました。
敵はピストルを発射したのです。
兵曹長がたおれたのを見ると、敵はたいへん元気になって、そのまわりにあつまってまいりました。
兵曹長は、起きあがろうとしきりに砂上に腕をつっぱっていますが、なかなか起きあがることが出来ません。それもそのはず、彼は腿《もも》のところをピストルのたまにうちぬかれたのです。鮮血はズボンを赤く染めて、なおもひろがっていきます。
敵はそれを見ると、どっと兵曹長の上におし重なりました。なんでもかんでも、彼を俘虜にしてしまおうというのです。
「き、貴様らにつかまってたまるものか。この野郎、えいっ」
小浜兵曹長は腕だけつかって、また敵を投げとばしました。なかなか勇猛な兵曹長です。
そのとき、敵の大将株の男は、卑怯にも兵曹長のうしろからそっと忍びよりました。そして兵曹長の油断をみすますと、足をあげて、かたい靴のさきで、兵曹長の後頭部を力まかせにがぁんと蹴とばしました。
「あっ!」
いくら勇猛でも、頭を蹴られてはたまりません。兵曹長は苦しそうにうめき、そのまま砂上に手足をだらんとのばして、静かになってしまいました。
敵どもの、大きな吐息《といき》がきこえました。
秘密艦隊会議
1
○○軍港に碇泊《ていはく》している軍艦六甲では、秘密艦隊司令官池上少将をはじめ幕僚一同と、塩田大尉や一彦少年の顔も見え、会議がつづけられています。
司令官池上少将は、一彦少年の顔をじっとみつめ、
「さあ、遠慮なく一彦君の考《かんがえ》をいってごらんなさい。怪塔王が博士を殺したと見せかけて、それでどうしたというのかね」
一彦は、いおうか、いうまいかと、まだ口をもごもごしています。
「おい一彦君、司令官のおっしゃるとおり、君の考を大胆にいってごらん」
塩田大尉も、そばから口をそえて、一彦をはげましました。
「はい。では、思いきっていいます」
と、一彦は、すっくと席から立ちました。
「これまで僕が見たところでは、大利根博士邸内のエレベーター仕掛の実験室といい、猿の鍵であく秘密室といい、怪塔王が怪塔の中に仕掛けているのと同じなんです。だから博士と怪塔王は、なんだか同じ仲間のようにおもわれます。ところが、あの邸内の秘密室に、博士の血ぞめのズボンが発見されました。博士の身の上にまちがいがあったように思われます。ちょっと見ると、怪塔王が邸《やしき》へしのび入って博士を殺したように考られます。しかしこれから怪塔王が大活動をしようというとき、大事な自分の仲間を殺すなんてことは変だとおもいます。僕は――僕は、こうおもいます。怪塔王と大利根博士とは、別々の人ではなく、同じ人だとおもいます」
「なに、怪塔王と大利根博士とは、同じ人だというのか。ふうむ、それはおもいきった考じゃ」
と、司令官はおどろかれました。
「もっとくわしくいいますと、怪塔王というのは、実は大利根博士の変装であるとおもいます」
「えっ、大利根博士が怪塔王だと――」
2
「大利根博士が怪塔王だというのか」
なんという大胆な考でしょう。
一彦少年のこの大胆な言葉に、司令官をはじめ幕僚たちは、しばらくはたがいに顔を見あわせるだけで、言葉をつぐ者もありませんでした。
そのうちに、やっと口を開いたのは塩田大尉でありました。
「一彦君。なにがなんでも、それはあまりに大胆すぎる結論だぞ。あの尊敬すべき国宝的学者が、まさか大国賊になろうとは思われない」
「でも、大利根博士邸で発見されたいろいろな怪しいことがありますねえ。あの怪しいことは、どう解いたらいいでしょうか。今もし大利根博士が怪塔王に変装しているのだと、かりに考えてみると、この怪しい節々は、うまく解けるではありませんか。博士邸と怪塔が、まったく同じような仕掛になっていること、同じ鍵であくことなど、みな合点《がてん》がいくではありませんか。どう考えても、怪塔王というのは大利根博士が化けているのだとおもいます」
「一彦君のいうところは、もっともなところがある。しかし私には、あの大利根博士が、そんな見下げた国賊になったとは、どうしても考えられないのだ」
塩田大尉は、まだどうしても、一彦のいうことを全部信ずる気にはなれませんでした。
ちょうどそのとき、本隊から池上司令官のところへ、怪塔ロケットを追跡中行方不明になった小浜兵曹長からの無電がはいって来たという喜ばしい報告がありました。
「おお、小浜兵曹長からの無電がはいったそうだ」
「えっ、小浜は生きていましたか」
と、おどりあがったのは、塩田大尉です。
「うむ、生きているらしい。彼は無人島上につくられている怪塔ロケットの根拠地に不時着《ふじちゃく》しているそうだ」
3
「えっ、無人島上に、怪塔ロケットの根拠地があるというのですか」
「根拠地とは、一体どういう意味の――」
幕僚や塩田大尉は、このだしぬけの根拠地報告に、びっくりしました。
司令官は、電文のおもてを見ながら、
「場所は北緯三十六度、東経百四十四度にある白骨島だとある。そこには怪塔ロケットが七八台も勢ぞろいしているそうだ」
「ふむ、怪塔ロケットは一台かぎりかと思っていましたが、七台も八台もあるのですか。これはわが海軍にとって、じつに油断のならぬ敵です」
「そうだ、怪塔ロケット一台ですら、あのとおり新鋭戦艦淡路をめちゃめちゃにしてしまったんだから、その怪塔ロケットに七八台も一しょにやって来られたのでは、わが連合艦隊をもってしても、まずとても太刀打《たちうち》ができまいな」
「残念ですが、司令官がおっしゃるとおりであります。これが砲撃や爆撃や雷撃でもって攻めて来られるのでありましたら、わが艦隊においてこっぴどく反撃する自信があるのですが、世界にめずらしい磁力砲などをもって来られたのでは、鋼鉄でできているわが軍艦は、まるで弾丸の前のボール紙の軍艦とかわることがありません」
「ううむ、残念だが、これは困ったことになった」
さすがに武勇にひいでた士官達も、怪塔ロケットの持つ磁力砲の威力のことを考えると、たいへんにおもしろくなくなりました。
塩田大尉は、この時、席に立上り、
「こうなれば、われわれの選ぶ道はただ一つであると思います。すなわち、大利根博士の秘密室で発見されたあべこべ砲を製造して、あれを軍艦や飛行機にとりつけるのです」
「うむ、そうするより仕方がないが、あのあべこべ砲は壊れているそうではないか」
4
怪塔ロケット一台さえ、もてあまし気味でありますのに、小浜兵曹長からの無電によれば、白骨島には、このような怪塔ロケットが七八台もいるという報告なのでありますから、全く驚いてしまいます。
たのみに思う大利根博士発明のあべこべ砲は、博士の秘密室のなかにありましたが、これは壊れていて役に立たないということであります。
塩田大尉は、司令官の前でじっと考え込んでいましたが、やがて決心の色をうかべ、
「司令官、あべこべ砲のことは、塩田におまかせくださいませんか」
「なに、まかせろというのか。塩田大尉は、どうするつもりか」
「はあ。私は、あべこべ砲をもう一度よくしらべてみます。そしてなんとか役に立つようになおしてみたいとおもいます」
「塩田大尉、お前には、あべこべ砲をなおせる見込があるのか」
「はい、私はかねて大利根博士と、新兵器のことにつきまして、いろいろと議論をいたしたことがございますので、それを思い出しながら、あのあべこべ砲を実際にいじってみたいとおもいます。机の上で考えているより、一日でもはやく手を下した方が勝だと考えます。あべこべ砲は、とてもなおせないものか、それともなおせるものか、いずれにしても、すぐにとりかかった方が、答は早く出ると思います。白骨島をすぐにも攻略したいのは山々でございますし、あの島に上陸後、音信不通となった小浜兵曹長のことも気にかかりますが、しかし御国《みくに》に仇をする怪塔王を本当にやっつけるには、今のところ、このあべこべ砲の研究より外に途《みち》がありません。ですから、私は我慢して、目を閉じ耳をふさぎ、壊れたあべこべ砲と智慧くらべをはじめたく思います。ぜひお許しを願います」
「よろしい、では許してやろう。当分、秘密艦隊の方へ出勤しなくてもよろしい」
青い牢獄《ろうごく》
1
こちらは、白骨島です。
勇士小浜兵曹長は、残念にも怪人団のために頭をけられ、人事不省におちいりました。
それから後、兵曹長の身のまわりにはどんなことがあったか、それは彼には何もわかりませんでした。それからどのくらいの時間がたったか、はっきりいたしませんが、とにかく兵曹長はひとりで我にかえりました。気がついてみると、脳天がまるで今にも破れそうに、ずきんずきんと痛んでいるのです。
「ああ、痛い」
さすがの兵曹長も、思わず悲鳴をあげました。そっと手をもっていってみると、そこの所は、餡《あん》パンをのせたように、ひどく腫《は》れあがっていました。
「ち、畜生。よくもこんなに、ひどいめにあわせやがったな」
兵曹長は、目をぱっちりあけると、あたりをきょろきょろと眺めました。
「はて、ここはどこかしら」
あたりは、電灯一つついていない真暗な場所でありました。そしてたいへん寒くて、体ががたがたふるえるのです。
手さぐりで、そこらあたりをなでまわしてみますと、床は固く、そしてじめ
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