くださいませんか」
「なに、まかせろというのか。塩田大尉は、どうするつもりか」
「はあ。私は、あべこべ砲をもう一度よくしらべてみます。そしてなんとか役に立つようになおしてみたいとおもいます」
「塩田大尉、お前には、あべこべ砲をなおせる見込があるのか」
「はい、私はかねて大利根博士と、新兵器のことにつきまして、いろいろと議論をいたしたことがございますので、それを思い出しながら、あのあべこべ砲を実際にいじってみたいとおもいます。机の上で考えているより、一日でもはやく手を下した方が勝だと考えます。あべこべ砲は、とてもなおせないものか、それともなおせるものか、いずれにしても、すぐにとりかかった方が、答は早く出ると思います。白骨島をすぐにも攻略したいのは山々でございますし、あの島に上陸後、音信不通となった小浜兵曹長のことも気にかかりますが、しかし御国《みくに》に仇をする怪塔王を本当にやっつけるには、今のところ、このあべこべ砲の研究より外に途《みち》がありません。ですから、私は我慢して、目を閉じ耳をふさぎ、壊れたあべこべ砲と智慧くらべをはじめたく思います。ぜひお許しを願います」
「よろしい、では許してやろう。当分、秘密艦隊の方へ出勤しなくてもよろしい」
青い牢獄《ろうごく》
1
こちらは、白骨島です。
勇士小浜兵曹長は、残念にも怪人団のために頭をけられ、人事不省におちいりました。
それから後、兵曹長の身のまわりにはどんなことがあったか、それは彼には何もわかりませんでした。それからどのくらいの時間がたったか、はっきりいたしませんが、とにかく兵曹長はひとりで我にかえりました。気がついてみると、脳天がまるで今にも破れそうに、ずきんずきんと痛んでいるのです。
「ああ、痛い」
さすがの兵曹長も、思わず悲鳴をあげました。そっと手をもっていってみると、そこの所は、餡《あん》パンをのせたように、ひどく腫《は》れあがっていました。
「ち、畜生。よくもこんなに、ひどいめにあわせやがったな」
兵曹長は、目をぱっちりあけると、あたりをきょろきょろと眺めました。
「はて、ここはどこかしら」
あたりは、電灯一つついていない真暗な場所でありました。そしてたいへん寒くて、体ががたがたふるえるのです。
手さぐりで、そこらあたりをなでまわしてみますと、床は固く、そしてじめじめしていました。
「ははあ、これでみると、俺はとうとう怪塔王の一味のため、俘虜《ふりょ》になって、穴倉かどこかへほうりこまれたのにちがいない。ちぇっ、ざ、残念だ。無念だ。帝国軍人が俘虜になるとは、この上もない不名誉だ。それに、憤死した青江三空曹の仇も討たないうちに、こんな目にあうとは、かえすがえすも残念だ――なんとかして、俺はここを破って、自由な体になってやるぞ」
小浜兵曹長は、ばりばり歯がみをして、奮闘をちかいました。
その時、どうしたわけか、小浜兵曹長の頭の上の方から、青い光がさっと照らしつけました。
2
頭の上から、さっと照らしつけた青い光!
「おやっ――」
と、小浜兵曹長は、上を見あげました。
すると、下から二十メートルもあろうと思われる高い天井に、一つの青電灯がついたことがわかりました。
それと共に、今小浜兵曹長のいる室内の様子が、青い光に照らし出されて、大分はっきりわかってまいりました。
それは、実に細長い室でありました。まるで、煙突の中にいるような気がします。兵曹長の横たわっている所は、円くて、そして人間がやっと手足をのばして寝られるくらいの広さの床をもっていました。そこから上は、まっすぐに円筒形の黒い壁になっていました。
「ふん、怪塔王が好きらしい造りの牢獄だ」
その黒い壁に、もしや上にのぼれる梯子《はしご》のようなものでもあるかと思いましたから、よく気をつけて眺めました。しかしそのような足掛《あしがか》りになるものは何一つとてなく、全くつるつるした壁でありました。
その時、小浜兵曹長の頭に、ちらりとひらめいた疑問がありました。
「なぜ、今頃になって、天井の青い電灯がついたのだろうか」
これはなにか、小浜兵曹長に対し、上からピストルでもうちかけるのではないかと思われました。そこで彼は身動きもせず、じっと天井の方に油断なく気をくばっていました。
その時でありました。
「はっはっはっはっ」
と、とつぜん破鐘《われがね》のような笑い声が、頭の上から響いて来ました。
兵曹長は、はっと息をのみました。
「はっはっはっはっ。ふふん、やっぱり貴様だったのか。わしのロケットを執念ぶかくどこまでも追いかけて来た飛行機のりだな。なんだ、変な顔をするな。ははあ、わしがどこから見ているかわからんので、びっくりしているのだろう。あはは
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