《はやぶさ》のように猛然と怪塔ロケットのあとを追いましたが、相手はぶるんぶるんと首をふりながら、遂に海中にどぼんとおちてしまいました。
「あっ、怪塔ロケットが海の中にもぐりこんだぞ」
「いや、墜落したのだ。早くあの真上までいって見よ」
 どこかに飛去るかとおもわれた怪塔ロケットが、いきおいもついにおとろえたか、そのまま太平洋の波間にしずんでしまったものですから、塩田大尉以下はめんくらったかたちです。
 偵察機は、海面すれすれのところまでおりて、怪塔ロケットが見えるかどうかとさがしました。しかし黒い海は、どこにロケットをのみこんでしまったか、けろりとしていました。
 しかたなく塩田大尉は、全機をすこし遠方にひきはなし、海面ひろく警戒をするように命令しました。それは怪塔ロケットが、いつ波間からとび出してくるかもしれない、と思ったからでありました。
 しかし怪塔ロケットは、ついにふたたび姿を見せませんでした。
 そして暮れかかっていた空は、どんどん暗くなっていって、とうとうまっくらな夜になってしまいました。
 こうなっては、怪塔をさがすことができません。塩田大尉はざんねんにおもいましたが、やむを得ずあとのことを、折から全速力であつまってきた駆逐艦隊にまかせ、ついにそこをひきあげることにしました。
 怪塔ロケットはどこへいったのでしょうか。そして今はどんなになっているのでしょうか。怪塔王や帆村探偵は、なにをしているのでしょうか。いろいろの謎をつつんで、怪塔をのんだ黒い海面は、しずかに眠をつづけています。


   炭やき老人



     1

 太平洋の波間に姿を消してしまった怪塔ロケットは、その後もすこしも姿を見せませんでした。駆逐艦隊は昼間も夜間も、ずっと海上の警戒をとかず、もしや怪塔ロケットが波間から顔を出した時は、大砲でどぅんと撃ってやろうとおもって、いつも待ちかまえていましたが、相手はどこにかくれているか何の音さたもありませぬ。
 ここで話は、勿来関のちかくの山の中にうつります。
 炭やきのお爺《じい》さんが山の中で、気をうしなっている少年を見つけました。
 そういう深い山の中に、少年がやって来たのも不思議なら、また少年の服装や足を見ても、旅をしたらしいところが見えないのは不思議でありました。
 たすけおこして見ますと、少年は右足に怪我《けが》をしていました。
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