なかにはいったきりで、外へ出ようにも鎖《くさり》でつながれているから、出られやしないじゃないか」
 こういう話を、さっきから階下へ通ずる階段の途中で、じっと聞いていた一人の人物がありました。
 彼は、もういいころと思ったのか、そっと階段をのぼりきって、黒人の前へいきなり顔を出しました。
 おどろいたのは黒人です。
「わっ、先生だ!」
 三階にいるはずの怪塔王が、なぜ階下からあがってきたのでしょう。

     3

 ジャン・ケン・ポンの三人の黒人は、大あわてです。さっそく円筒のなかに首をひっこめ、蓋をがたがたしめようとしますが、あわてているので、なかなかうまくしまりません。
「おい、こら。ちょっと待て」
 と、階下から来た怪塔王は言いました。
「へーい」
 三人の黒人は、蓋を頭の上にのせたまま、また首を出しました。
 そのとき黒人は、心のなかで、「おや!」と思いました。それは怪塔王が、へんな服を着ているからでありました。それはいやに長くすそをひいた、だぶだぶの外套《がいとう》みたいな服でありました。それは黒人たちが、はじめて見る服装でありました。
(先生は、へんな服を着ているぞ)
 と、三人が三人ともそう思いました。
「こら、お前たち。あの警報ベルがなっているのが聞えるだろうな」
「は、はーい」
「あれはお前たちも知っているとおり、この塔の一部がこわれたのを知らせているのだ」
「はい、はい」
「このままでは危険だから、塔をはやくうごかさにゃあぶない」
「はあ、そのとおりです。私どももさっきからそれを申していましたので……」
「じゃあ、すぐうごかせ。よく気をつけてうごかすんだぞ」
「先生、どっちへ塔をうごかしますか」
「うん、それは――」
 と怪塔王はちょっと考えて、
「そうだ、横須賀《よこすか》の軍港へ下りるように、この塔をとばしてくれ」
「へえ、横須賀軍港! それはあぶない」
 黒人は、横須賀軍港と聞いて、顔色をかえました。

     4

「横須賀の軍港とは、ワタクシおどろきます」
 と、円筒のなかの黒人は、大きなためいきとともに、怪塔王にあわれみを乞《こ》うように言いました。
 もう一人の黒人もふるえごえを出して、
「横須賀の軍港へこの塔をもっていくと、ワタクシたちまるでわざわざ虜《とりこ》になりにいくようなものです」
 のこりの黒人は、ただひとり元気よく
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