大尉はやっとわれにかえって号令を下しました。だが、今さらうしろから撃ってみても、どうにもならぬことを知ると、大尉はついに撃方《うちかた》はじめを命じませんでした。
 それに代って、信号兵がえらばれ、本艦との間にさかんに手旗信号が交されました。本艦でも、まったく不意うちのありさまで、甲板にいた水兵さんたちも、あれよあれよと、ロケットの出すガスの尾を見まもるばかりでしたが、この時勇ましい爆音が艦上に聞えると思う間もなく、二台の艦載機が、カタパルトの力でさっと空中にとびだしました。これは怪塔ロケットを追跡していくためでありました。乗手は有名な金岡大尉と三隈《みくま》一等航空兵曹とでありました。
 しかしこの名手たちも、やがてがっかりして艦の方にまいもどってきました。空中からの報告が発せられました。
「司令。追跡してみましたが、とても向こうの速度がはやいので、どうすることもできません。怪ロケット機の姿を、ついに真北の方角に見失いました」

     5

 それっきり、怪塔ロケットの行方はしれなくなってしまいました。
 帆村探偵や一彦少年はぶじでいるでしょうか。また怪塔王は、次にどんなことをやろうと考えているのでしょうか。
 軍艦淡路の検察隊長塩田大尉は、こうなったことについて残念でたまりません。
 そこへ一彦の妹のミチ子が、兄のことを心配してたずねて来たものですから、塩田大尉の胸のなかは、にえくりかえるような有様でした。
「ミチ子さん、まあ、おかけなさい。ほんとうにお気の毒なことになりましたね」
 ミチ子の捷毛《まつげ》は心配のあまり涙でぬれていました。
「大尉さま、兄さんはもうかえってこられないのでしょうか。帆村おじさんも一しょに行ってしまって、あたしの身よりは、もう一人もなくなりましたわ。あたしが男だったら、怪塔王のあとを追って、兄さんたちを救いだしにいくのですけれど――」
 塩田大尉も目をしばたたき、ミチ子の頭をやさしくなでながら、
「ミチ子さんは、そう心配しないがいいですよ。私たちがきっと探しだします。本艦をこんなひどい目にあわせたのもどうやら、ミチ子さんのいう怪塔王の仕業《しわざ》のようですから、これはどうしても私たちの手で怪塔王征伐をしなければならないと思います。しかしながら、あの怪塔王は、私たち専門家が考えても不思議でならないほどの恐しい武器をもっている
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