しの体に、そんなピストルのたまがはいるものかと、さっき教えておいたじゃないか」
 と、怪塔王はにくにくしげに笑いながら、すこしずつ帆村と一彦の方にすり足で近よってきます。
 帆村は、もう駄目だとは思いましたが、それでも一彦だけはなんとか助けたいものと、うしろへかばっています。怪塔王が一歩すすめば、彼もまた一歩うしろにしりぞきます。そうしてじりじりと怪塔王におされていくうち、とうとう二人は壁ぎわへ、ぴったりおしつけられてしまいました。
「さあ、いくぞ!」
 怪塔王はいきなり大声をはりあげると、隠しもっていたフットボールほどの球を、頭上たかくさしあげました。
「これは殺人光線灯だ。貴様たち、今このあかりがつくのを見るじゃろうが、その時は、お前たちの最期だぞ。わかるじゃろう。そのときは殺人光線が貴様たちの全身を、まっくろこげに焼いているときじゃ」
 ああ、あぶないあぶない。殺人光線灯のスイッチを入れると、すぐにそのあかりはつきましょう。そうなれば帆村も一彦もくろこげになって死ぬというのですから、二人の命は、もはや風の前の蝋燭《ろうそく》とおなじことです。
(どうしよう?)
 と、一彦は帆村にしがみつきました。帆村は彫刻のようにかたくなって、怪塔王をにらみつけています。
「ちょっと待て」
 と、帆村は怪塔王に声をかけました。
「なんだ、青二才、命がおしくなったか」
「いや、お前こそ気をつけろ。いま時計を見ると、丁度《ちょうど》この塔へむかって、わが海軍の巨砲が砲撃をはじめる時刻だ。お前こそ命があぶないのだぞ」
「えっ――それは本当か」
「本当だとも。そんな手筈《てはず》がついていなければ、僕たちのような弱い二人で、なぜこんなあぶない塔の中へはいりこむものか」

     5

 怪塔が軍艦淡路から砲撃されると聞かされ、怪塔王はおどろきました。
「ああ砲撃される。そいつは気がつかなかった」
 そういったおどろきの言葉は、ほんとうに怪塔王の腹の底から出たものと見えました。
 帆村と一彦とをそこにのこしたまま、怪塔王はあわてふためき、階上にかけあがってしまいました。
 怪塔王はいま三階の自室にかえって、しきりに妙な機械の中をのぞいています。それは巧妙な地中望遠鏡でありました。地中にいてそれで地上がよく見えるという機械でありました。
 これは潜水艦の潜望鏡みたいなもので、光の入口は
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