のことではない。いまいった土のことを土壌というのだよ。つまり大地を掘れば、その下にあるのは土壌ってえわけさ」
「なんだ、ただの土のことか、僕は魚のどじょうのことかと思ったから、それで驚いてしまったんだよ」
「いや、君はときどき面白いことをいうね。いま君に笑わせてもらったお陰《かげ》で、おじさんはたいへん気がおちついてきたよ」
 と、つづいてにやにや笑い、
「そこで一彦君、もう一つ君にお礼をいわなければならないことは、いま君に土壌とはどんなものかと説明している間に、この出入口をふさいでいる土壌の謎をとくことができたよ」
 帆村探偵が、この不思議な土壌は、そもそもどこから来たかという謎をといたといったものですから一彦少年は目をまるくしました。
「といたの? おじさんは謎をといたんだって。じゃあ早く教えてよ。なぜこんな土を持ってきたの」
「といてみればなんでもないことさ」と、帆村はこともなげにいってのけ、「つまり、この土壌は、大地を掘ったところにあるはずのものだから、しからばいまこの怪塔は、エレベーターのように、地上から大地の中におりているのである。さあどうだ、おもしろい考え方だろう」

     2

 怪塔が、エレベーターのように、地上から大地の中におりたという帆村の考えは、じつに思いきった見方でありました。
「おじさん、本当かい。怪塔がエレベーターのように下るんだって、ははははは」
 と、こんどは一彦君が笑いころげました。
「いや、ちっともおかしくない」と、おじさんは大真面目でいいました。「いいかね一彦君。僕たちがこの出入口の錠をはずして、この部屋へはいったときには、もちろん扉の外は道路になっていた。ところが今は、扉の外には道路がなく、そして土壌があるというのでは、塔が地中にもぐったものとしか考えられないではないかね」
「だって塔が下るなんて、信じられないや」
「一彦君、お聞き、エレベーターだって、五十人も百人ものれる大きなやつがあるんだぜ。この怪塔王という不思議な人物は、戦艦をこの塔へひっぱりつけたほどの怪力機械をもっているのだから、この怪塔を上げ下げすることなんか朝飯前だろう」
「な、なーるほど」
 一彦ははじめて塔が地中に下るわけが、なんだかわかったような気がいたしました。
 もちろん皆さまは、ずっと前からそれがよくおわかりになっていたことでしょう。軍艦淡路の
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