クの下に、どんな顔があったでしょうか、息づまるような瞬間です。
 怪塔王は、しばらくうつむいていましたが、やがて顔をしずかにあげました。
 鬼神の顔か? それとも国宝科学者といわれた大利根博士の顔か?
 いや、そのどっちでもありませんでした。それはのっぺりした若い西洋人の顔でありました。まったく見も知らぬ西洋人の顔です。
(おや、これが怪塔王の素顔か!)
 帆村も、小浜も、ともにちょっと呆気《あっけ》ない感じがしないでもありませんでした。
「さあ、これがわしの素顔だ。よく見てくだされ」
 そういう声は、いつも聞きおぼえのある憎い怪塔王の声でありました。すると、この若い西洋人が、汐ふきのマスクをかぶって、あのように大胆な悪事のかずかずをやっていたのです。
「貴様は一体、どういう素性《すじょう》のものか」
 兵曹長が、こらえきれないといった風に、怪塔王に問をかけました。

     2

「わしの素性か、そんなことはどうでもいい」と、怪塔王はあらあらしく息をはずませながら、
「わしは日本海軍をやっつけて、東洋をめちゃめちゃにするつもりだったが、失敗した。失敗したうえからは、わしはなにもいいたくない」
 そういって、きっと口を結んでしまいました。この若い西洋人は、発明狂ででもありましょうか。その生《お》いたちこそ、ぜひしらべてみたいくらいの、じつに興味ふかいものでありました。
 さっきから口を閉じたまま、呆然《ぼうぜん》と怪塔王の素顔に見入っていた帆村は、このとき、つと一歩すすみますと、
「おい怪塔王、僕は、じつをいうと、怪塔王とは大利根博士の化けたのではないかとおもっていた。しかるに、マスクをとったところを見て、僕の考《かんがえ》がちがっていたことがはっきりわかった」
 といって、帆村はちょっと唇を噛んで、
「――で、僕はここに、怪塔王からぜひとも返答をもとめたい一事がある」
「えっ、それは何じゃ」
「それは大利根博士の行方だ。博士はいま、どこに居られるか、すぐそれを教えたまえ」
「そんなことは知らん」
「知らんとはいわせない。怪塔王が博士邸へ押入ったことはわかっているんだぞ。博士の上着が遺《のこ》され、それに血が一ぱいついていたこともわかっている。大科学者を、君はどこへ連れていったのか。博士はまだ生きているのか、それとも君が殺したか。それを知らないとはいわせないぞ」

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