せんでした。
「おい、青江、いよいよこのへんで、貴様の高等飛行の手並を見せてもらうぜ」
「はい、それを待っておりました。かならず敵を征服いたします」
と青江三空曹は、はりきったこえで、返事をいたしました。
「うん、その調子でしっかりたのむぞ。では、おれが命令するとおりに操縦をしてみてくれ」
「はい、承知しました」
「では命令を発するぞ。――まず急上昇!」
「はい、急上昇!」
こえのおわらないうちに、青江機は空中に垂直に立ちました。エンジンははげしい爆音を立てます。機はぐんぐん上る!
「ああ、怪塔ロケットが右へにげだしたぞ。にがしてたまるものか。――宙がえり、急降下で右へ!」
青江機は空中に美しい輪をえがいて、くるりと一転しました。そして、そうするが早いか、たちまち機首を下にむけて、のろ牛をおそう鷲《わし》のように、猛烈なスピードでさっとまいおりるのでありました。
「うまいうまい。りっぱな手並だ、まるでおれの若いときのようだ。いや、おれの方が、もうちっと上手《じょうず》だったがね」
と、小浜兵曹長がいいました。操縦中の青江三空曹は、ほめられたのか、それともひやかされたのか、どっちであろうかと目玉をくるくる。
そのうちにも錨綱は、不思議なゆれかたをして、空中を大蛇のようにのたうちます。
おどろいたのは怪塔王です。あぶなくて、ロケットを飛ばしていられません。
繰縦をやっている三人の黒人を叱《しか》りつけ、やれもっと左へ避けろだの、やれもっと高くあがれだの、体中汗びっしょりになって号令をかけています。が、怪塔ロケットはだんだん空中にすくんで来ました。
4
怪塔ロケットが宙ぶらりんにすすみだしたと見て小浜兵曹長は、
「おお、今だ!」
と、さけんだのでありました。
なにが今だというのでありましょうか。
そのとき小浜兵曹長は、青江三空曹にむかって風変りな命令を発しました。
「おい、青江、怪塔ロケットの周囲を連続宙がえり!」
連続宙がえりとは、たいへんな命令です。しかも怪塔ロケットの周囲をぐるぐるまわれというのですから、これはなかなかむずかしい。このへんが、操縦士のうでまえの見せどころであります。
「怪塔ロケットの周囲を連続宙がえり、始めまぁす」
と、復唱するなり、青江三空曹は桿《かん》をぐっとひいた。すると、青江機はぐっと機首をあげるなり、
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