はつっ立ちました。
 ごぼ、ごぼん、しゅうっ。
 怪音をあげて、怪塔はふかい海底から水面までをひとはしり! ついに海面に、その気味のわるい首をあらわしたかと思ったとたん、ぴゅうと空中高くまいあがりました。

     4

 めずらしや、海底からうかび出て、ふたたび空中高くまいあがった怪塔ロケット!
 海底では、日がさしませんから、夜はもちろん、昼間もまっくらで、あたりの様子から時刻を知ることができません。
 だが、こうして空中にとびだしてみると、あたりはいま、夜が明けはなれたばかりの朝まだきであることがわかりました。
 朱盆《しゅぼん》のように大きくて赤い朝日が、その朝、ことにふかくたちこめた海上の朝霧のかなたに、ぼんやりと見えます。
 霧は、怪塔王のために、まさに天のあたえためぐみだと、怪塔王は、じぶんでそう考えてよろこんだのです。
 しかし、一体怪塔王に、天のめぐみなどがあってよいものでしょうか。
 そうです。天のめぐみだとよろこんだのは、怪塔王の早合点《はやがてん》のようでありました。
 たんたんたんたんたん。
 どっどっどっどっどっ。
 ううーっ、ううーっ、ぶりぶりぶり。
 たちまち聞えるはげしい機関銃のひびき。そして間近にちかづくエンジンの爆音!
 飛行機だ!
 わが監視隊に属する偵察機だ!
 なんという大胆な行動だろう。このふかい霧のなかをついて、どんどん怪塔の方へ近づいて来る。
「ややっ、また出たな。なんといううるさい飛行機だろう」
 怪塔王は、にがにがしいといった顔をしました。
「正面から来るやつなら、幾台でも落してやるんだが、癪《しゃく》にさわることに、このごろ敵の飛行機のやつは、こっちの舵器のあたりがよわいことを知っているとみえ、そこのところばかり攻めて来るので、あぶなくてしようがない」
 そういって怪塔王は、あらあらしく舌打をしました。


   追跡急!



     1

 海底から浮かびあがって、爆発する心配はなくなった怪塔ロケットでありましたが、さて空中にとびあがってみますと、こんどは深い霧にまきこまれ、さらに待ちかまえていた監視飛行隊にみつけられ、ひどく急な追跡をうけたのであります。
「ちくしょう、ちくしょう!」
 と、怪塔王は配電盤をのぞきながら、たいへん怒っています。
「あっ、あぶない。また飛行機が……」
 配電盤には、四角に
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