えました。
「おや、塔の中に誰かいますよ」
「なに、いるかい。双眼鏡をこちらへお貸し」
「ちょっと待って、おじさん」
と、一彦はなおもカーテンを見ていますと、そのうちにカーテンの間からあたりを憚《はばか》るように一つの顔があらわれました。その顔! その奇妙な顔!
「あっ、あの顔だ――」
と、一彦はびっくりして双眼鏡から目を放しました。それは誰の顔だったのでしょうか。
3
「あの顔って、どんな顔だ」
と、帆村は一彦の手から双眼鏡をとって、すぐ目にあてて見ました。しかし帆村の目には、一彦が見た塔上の怪人の顔は、もううつりませんでした。
「もう顔をひっこめたらしい。一彦君、どんな顔を見たんだ」
と、探偵帆村荘六になりきって、おじさんは一彦を離しません。
「おじさん、それが変な顔です。汐ふきのお面みたいな顔です」
するとミチ子も、それに声をあわせて、
「ああ、あの変なおじいさんのことなの。そうだったわね。昨日ここを通りかかったところを兄さんと一しょに見て笑ったのよ。だって、とても変な顔なんですもの、ほほほほ」
と、ミチ子はあの口のとびだした滑稽な顔を思いだして、おかしくてたまりません。
「とにかく、実はあの塔を調べてみろというその筋からの命令で、こうしておじさんは、はるばるやってきたのだ。じゃあミチ子はあぶないから、家《うち》で待っておいで。おじさんは一彦君と一しょにいってみるから」
ミチ子は、すこし不満でしたが、帆村探偵がとめるので、仕方なく家へかえってお留守をすることになりました。
怪塔は、そこから一キロほどの道のりでありました。塔のうしろはこの辺に珍しい森になっていて、また前は海との間に寝たような形の丘が横たわっていました。
一彦と帆村とは、たいへん急ぎ足でいきましたけれど、そこへつくまでには、三十分もかかりました。傍《そば》に来てみると、塔はますます高く、見るからに頭の上からおしつけられるような感じのする塔でありました。
「おじさん、ここに入口があるよ」
「うむそうか。開くかどうかやってみよう」
といいながら、帆村は注意ぶかくゴムの手袋をはめ、ドアの把手《とって》を握っておしてみましたが、びくとも動きません。
4
怪塔王は、塔の一番上の部屋の中に、どっしりと据《す》えた肘掛椅子《ひじかけいす》にうずくまって、向こうを
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