フで顔をかくした人物だった。
「間にあったんだろうな」
 その覆面の人物は、きいた。
「はあ、見事におまにあいになりました。やっぱり親分はたいしたお腕まえで……」
「これこれ、親分だなんていうな。きょうからスコール艇長とよべ。おおそうだ。艇長室はきれいになっているだろうな」
「はいはい。それはもうおいでを待つばかりになっております。ええと……スコール艇長」
 スコール艇長はマフラーの中で顔をゆすぶって笑った。
「よし、満足だ。安着祝《あんちゃくいわ》いに、みんなに一ぱいのませてやれ」
「え、みんなに一ぱい?」
「おれの乗ってきたコスモ号のなかに、酒はうんとつんできてやったわい」
「うわッ、それはなんとすばらしい話でしょう。さっそくみんなに知らせてやりましょう」
「ちょっと待て。顔の用意をするから、おまえもうしろを向いてくれ」
 やがて、もうよろしいと、スコールの声に、テイイ事務長がふりかえってみると、そこには顔全部が灰色の髭《ひけ》にうずまったといいたいくらいの人のよい老艇長がにこにこして立っていた。
「あッ」と事務長はおどろいた。
「ふふふ、これならおれだという事はわかるまい。重宝《
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