。つまり乗組員が家族に送られて艇を出たりはいったりしましたからねえ。もしそういうすきがあったとすれば、それはそのときですよ」
 これは帆村荘六の意見だった。
「まあ、こうだろうという話は、それぐらいでいいとして、じっさい見たことで、怪しいと思ったことがあったらのべてもらいたい」
 隊長テッド博士は、議論よりも事実のほうが大切だと思った。
「べつに怪しい者が出入りしたとは思いませんがねえ。みんな家族なんですから」
「出入《でい》りの商人もすこしは出入りしたね」
「招待客もすこしは出入りしました」
「顔を緑色のスカーフでかくした男がうろうろしていましたね。松葉杖をついていましたから、みなさんの中にはおぼえていらっしゃる方もありましょう」
 帆村がいった。
「あっはっはっ」と同席のひとりが笑った。
 帆村は、なぜ笑われたのかわかりかねて、その人の顔をふしぎそうに見た。
「それはガスコ氏だ」
「ガスコ氏とは?」
 帆村いがいの人びとは、にやにや笑いだした。
「ガスコ氏というのは、こんどの救援事業に、名をかくして六百万ドルの巨額を寄附してくれた風変りの富豪だ。金鉱のでる山をたくさん持っている」

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