が、作りもののお面ではなく、生きている動物の顔であることに気がついたので、腹をたてて、長く伸ばした折り尺をとりなおして、ぷすりとお面ではない、その怪物の顔をついた。たしかに手ごたえがあった。
 が、とたんにその顔は、換気穴から消えてしまった。そしてばしゃんと音がして、金網《かなあみ》が穴をふさいだ。
「逃げてしまった」三根夫は、ざんねんでたまらず、歯をぎりぎりかんだ。
 そのとき、入口の戸をノックして、扉をひらいてはいってきた者がある。


   見えない怪物


「おや、三根クン。そんなところで何をしているんだい。おやおや、へんなものをかぶって、それはどうしたんだ」
 それは帆村荘六だった。この部屋は、三根夫と帆村とふたりの部屋であったから、帆村がはいってきてもふしぎでない。
「今、へんな怪物が、あそこの穴から、こっちをのぞいていたんですよ」
 と、三根夫は帆村のほうへふり向いてそういった。が三根夫はそのとき大驚愕《だいきょうがく》の顔になって、
「あッ。誰のゆるしをえて、この部屋へはいってくるんだ」
 と叫びながら、椅子からとびおり、帆村のほうへ向かってきた。
「おいおい、三根クン
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