「なにをしていたの」テッド隊長は三根夫にたずねた。そこで三根夫は、ありのままを答えた。
この町の衣食住にかんするものはすべて無料であるとわかったことも話した。
「それはけっこうだ。しかし、いらないものまで買わないほうがいいね」
と、かるくいましめた。人間は慾が深くていらないものまでかきよせるくせがある。無料で、衣食住にかんするものを市民にわけているこの町では、おそらく市民たちがひつようなものだけを手に入れ、いますぐにひつようでないものはほしがらないから、このように生活費が無料になっているのであろうと、テッド隊長はさっしたのであった。一行は、またおなじ方向を歩いていてだれにも衝突しなかった。たいへんふしぎである。よく考えてみると、こっちからは怪星ガン人の姿が見えないが、はんたいにガン人のほうからは三根夫や帆村たちの姿がよく見えていて、ガン人のほうで道をゆずるから、突きあたることもないのであろうとも思われるのだった。
サミユル博士の家へついた。それは原のなかに一つさびしく立っている四角な白い建物だった。外から見ると、かざりもなんにもない殺風景《さっぷうけい》な建物であったが、玄関からなかへはいってみると、家具などがなかなかりっぱであった。
家の中には、誰もいなかった。さっするところ、博士ひとりが住んでいるらしい。
りっぱにかざられた広間に、一同は腰をおちつけた。
「ハイロ君、ちょっときてくれたまえ」
「はい、ただ今」誰もいないと思ったのに、となりの部屋と思うあたりで男の声がした。
緑のカーテンが、奥に面したところにかかっていたが、それがさっと一度だけ動いたのを三根夫は見た、と、かすかに足音が近づいて、やがてサミユル博士の横で声がした。
「ご用でございますか、はい」
「お客さまがたに、ちょっと一口、何かおいしいものをさしあげてください」
「はい、かしこまりました。さっそく用意をいたします」
姿が見えないハイロは、そういってさがっていった。
「いまだ、テッド君。時間はいくらもない。ハイロがコーヒーなどを持ってくるまでの五分間ほどが、ほくたちが自由に話ができる時間なのだ。重要なことがらだけを話しあいたいのだ」
サミユル博士は、テッド隊長の腕をつかんで、はや口にいった。老博士の額には脂汗《あぶらあせ》がねっとりとうかんでいた。これにはテッド隊長も緊張のてっぺんへほうりあげられた形だ。
「わかりました。サミユル先生。あなたがたもやはり捕虜生活をつづけていらっしゃるんですか」
「そのとおり」
「この怪星ガンの正体は、いったいどんなになっているものですかな」
「それは残念ながら、まだ知りつくすことができない。しかしわしたちのさっするところでは、人工の星ではないかと思う」
「人工の星とは?」
「天然の星ではなく、人力《じんりょく》というか何というか、とにかく現にこの怪星に住んでいる智能のすぐれた生物が、――あえて生物という、人間だとはいわないよ――その生物がこしらえたものじゃないかと思う」
「だって、この大きな星を人工でこしらえあげるなんて、できることでしょうか」
「われわれ地球人類の想像力の範囲では、とてもこの怪星の秘密を知りつくし、解きつくすことはできないであろう。われわれは一つでもいいから、じっさいに存在するものを観察して、その上にだいたんな結論をたてるのだ。そういう結論をいくつもいくつも集めたうえで、それらを組合わせるのだ。すると、そこにこの怪星の正体が、おぼろげながらもだんだんはっきりしてくるのだと思う」
さすがに世界的な老探検家サミユル博士のことだけあって、しっかりした考えを持っているのに、テッド隊長は心から感動した。
「それはそれとして、この怪星はいったい何者が支配しているのですか」
「れいの生物のなかで、智能のすぐれた者が、この怪星をしっかりおさえているんだと思う」
「われわれを捕虜にして、これからどうしようというつもりなんでしょう」
「それは――」と、いいかけてサミユル博士は口をつぐんだ。奥からコーヒーの香《か》がぷーんと匂ってきたからである。三根夫は見た、カーテンがゆらいで、銀の大きな盆《ぼん》のうえに、湯気《ゆげ》の立ったコーヒー茶碗が、宙をゆらゆらゆれながらこっちへ近づいてくるのを……
「あっはっはっはっ。まあまあ、ひとつ呑気《のんき》に愉快に暮らしていこうじゃないか」
老博士は、とってつけたようにいった。
「コーヒーをどうぞ」
ハイロの声が、近くに聞こえた。おだやかな声だった。コーヒーは一同にくばられた。
そのときだった。銀の盆が大きく床に鳴った。ハイロのおどろいた声。
「あッ、怪物。あんなところに怪物が! たいへんだ」
ハイロは足音もあらく奥へとびこんだ。警鈴《けいれい》らしいものが鳴り
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