を八つに折りたたんで、革製の名刺入れのなかにつっこんだ。
「さあ、でかけよう」
伯父は寝衣をぬいで、外出用の服に着かえた。たった一分しか、かからない。それから机の上の雑品をあつめてポケットへつっこんだ。それから戸棚《とだな》から一個のトランクをだして、手にさげた。
「ミネ君。でかけるが、きみの準備はいいかい」
「待ってください、伯父さん。ぼくはこれから荷造《にづく》りをするのです」
「おやおや、そうかい。……でもまだ三十分時間があるね」
救援艇の出発
ニューヨークのエフ十四号飛行場から、十台の救援ロケット艇がとびだしたときの壮烈なる光景は、これを見送った人びとはもちろん、全世界の人びとにふかい感動をあたえた。
帆村荘六と、甥の三根夫少年は、テッド隊長の乗っている一号艇に乗組んだ。
各艇とも、乗員は三十名であった。
遭難をつたえられるサミユル博士搭乗の『宇宙の女王《クィーン》』号にくらべると、搭乗人員ははんぶんであるが、そのかわりこの救援ロケット艇は、最新型の原子エンジンを使っているので、ひじょうなスピードをだすし、またその航続距離にいたっては十億キロメートルを越すだろうとさえいわれる。
うつくしい流線形をした巨体。後部には、軸《じく》に平行に十六本の噴気管がうしろへ向かって開いている。
頭部の一番先のところが半球形の透明壁《とうめいへき》になっていて、その中に操縦室がある。その広さは十畳敷ぐらいあるというから、このロケット艇はかなりの巨体であることがわかろう。
出発のときは、胴体から引込《ひきこ》み式の三|脚《きゃく》をくりだして、これによって滑走《かっそう》した。そのとき、やはり胴体から水平翼《すいへいよく》と舵器《だき》が引き出されて、ふつうの飛行機とどうように地上を滑走した。
もちろんプロペラはないから、尾部《びぶ》からはきだす噴気《ふんき》の反動によって前進滑走した。そしてある十分なスピードにたっしたとき、艇は空中に浮かびあがり、それから、足と翼と舵器とをそろそろ胴体のなかにしまいこむ。
一等むずかしい仕事は、スピードをだんだんあげていくその調子であった。スピードをそろそろあげていたのでは、目的地へたっするのにたいへん年月がかかって、搭乗員《とうじょういん》はみんな老人となり、ついにはみんな死んでしまわなくてはならない。
そうかといって、あまりスピードをあげる割合いを――このことを『加速度のあげ方』ともいう――その割合いをきゅうにすると、搭乗員の内臓によくないことが起こる。ことに脳がおしつけられてしまって、気が遠くなったり、仮死《かし》の状態となり、はげしいときにはそのままほんとうに死んでしまう。そういうことがあるから、あまり加速度をきゅうにあげることもできないのであった。
つまり、その中間の、ほどよい、そして能率のよいスピードのあげ方というものがある。それをまちがいなく正しく調整していくことが操縦員にとってまず第一番のたいせつな仕事であった。
「ああ、なんという壮烈なことだ。どうかこの十台の救援艇が、無事にもどってきてくれますように」
そういって、ひそかに神に祈りをあげる老紳士もいた。
「うまくいくだろうか。三十名十台だから、総員三百名だ。このうち何人が生きて帰ってくるだろうか」
心配する飛行家もいた。
「ああ、勇《いさ》ましい。あたしはなぜいっしょにゆけなかったんでしょう。エイリーンさん、アネットさん、ペテーさんはいってしまった。あたし、うらやましい」
ハンカチーフをふりながら、残念がるお嬢さんもいた。婦人の搭乗者もあると見える。
「どうかなあ。この救援は成功しまいとおもうよ。第一、宇宙はあまりに広いんだ。……それにね、去年の春あたりからこっちへ、ひんぴんとして行方不明の宇宙艇があるじゃないか。わしのにらんだところによると、宇宙のどこかに、兇悪《きょうあく》な宇宙の猛獣とでもいうべき奴がひそんでいて、みんなそれに喰われてしまうんだどおもうよ」
禿げ頭のスミス老人が杖をふりまわしながら、花束を持った四、五人の老婦人を相手にしゃべっている。
「まあ、宇宙の猛獣ですって。またスミスさんのホラ話がはじまったよ」
「なにがホラ話なもんか。わしはきのう、その宇宙の猛獣をつかう恐ろしい顔をした猛獣使いを見つけたんだ。わしは相手に知られないように、こっそりと、その恐ろしい奴のあとをつけていったが――ややッ」
スミス老人は、きゅうに話を切って、おどろきの声をあげた。そのときそばを、顔を緑色のスカーフでぐるぐる巻きにした目のすごい怪しい男が、松葉杖にすがりながら、通りすぎた。
自称《じしょう》金鉱主《きんこうぬし》
スミス老人は、おしゃべりを忘れてしまったかのように、口を
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