なかったのか。まったく、大事な機会を逃がしたと思う。あのとき問いただせば、なまず[#「なまず」に傍点]みたいにぬらりくらりしたテイイ事務長といえども、顔色をかえて、泥をはくしかなかったと思う。しかるに大佐は、それをしなかった」
 助教授のとなりにいた帆村が立って、隊長に発言の許可をえたのち、口をひらいた。
「いまポオ助教授が大佐にたいしふまんをのべられましたが、それについて、じつはわたしも責任があります。それはわたしは『空間浮標』のことは、われわれが知らないでギンネコ号を引きあげていったと、相手に思わせる必要があると思ったからであります。もし、それをいいだせばギンネコ号の連中は、ロバート大佐をはじめわたしたち三名を、やすやすと引きあげさせなかったでしょう。わたしはギンネコ号が、秘密をもったいやな宇宙艇であることを、艇内にはいると同時にさとったのです」
 帆村は、横の椅子に腰をおろしたポオ助教授を気の毒そうにながめながら、
「ですから、ポオ助教授が、あの黒バラ印の空間浮標を見つけて、おどろきのあまり声をたてようとされたとき、それをさせてはたいへんと、わたしは失礼をもかえりみず、ポオさんの足を踏み、それをわたしがおわびするさわぎでもって、ポオさんがおどろきの声をあげたのをごまかしてしまったのです。いや、助教授、あのときは失礼いたしました」
 そういって帆村はわびた。
「……それからわたしはいそいでこのことを大佐に知らせ、そしてこの場は、知らんふりをして引きあげるのがいいと思うと申しあげようとしたんですが、さすがに大佐は、さっきからのことも、またわたしの申しあげようとしたこともさとっておられ、余《よ》にまかせておけと合図をされたのです。ですからポオ助教授のふんがいされることはもっともながら、いま申しあげた事情によって、どうかわかっていただきたい」
 と、帆村はあいさつをして、席にもどった。
 助教授は、まだじゅうぶんにのみこめないといった顔だ。
 そのとき隊長テッド博士は、あらたまった口調になって、次のとおりのべた。
「このたびの処置は正しかったと思う。そしてギンネコ号にたいしては、いろいろと対策をかんがえておかなければならない。そして黒バラ印の空間浮標の一件については本国へ向かっての報道を禁止する。事態は重大である」
 この部屋の隅で傍聴をしていた三根夫も、このとき思わ
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