のとおり、ぼくは意外なものをあの部屋のなかで見つけたのです。それは発光式の空間|浮標《ブイ》です。はじめその上にカンバス布《ぬの》がかけてあって見えなかったのですが、ぼくたちが帰るとき、テイイ事務長の身体がカンバスにさわって、その布が動いて横にずれた。それで下にあった空間浮標が見えたんです」
「ほう。それはもしや『宇宙の女王《クィーン》』号のものじゃなかったのか」
大佐は先をいそいで、質問の矢をはなつ。
「そうなんです、あの器具は、ぼくが五十箇だけ用意をして女王号にとどけたんです。そしてそれに書きこんでおいたしるし[#「しるし」に傍点]は、黒いバラの花でした。さっきぼくが見たとき、カンバスの下から出ているあの浮標のうえに、たしか、その黒いバラのしるしのあるのをみとめました」
この話は、大佐をおどろかした。
「すると、ギンネコ号は、女王号の空間浮標をひろって、知らぬ顔をしているんだな」
「そうなりますね。ごしょうちでしょうが、あの空間浮標は、宇宙の一点にいかりをおろしたように動かないで、その一点をしめす浮標なんですが、しかしもう一つの使い道があります。それは遭難したときなど、その遭難現場を後からきた者に教える役もします。そういうときには、艇から外へほうりだすまえに、重大な遺書を中へ入れるのがれいになっています」
「では、ギンネコ号は、女王号の遺書をぬすんで、知らん顔をしているのか。じつにけしからんことだ。いったい、なぜこんなことをするのか。よし、これから引き返して持ってこよう」
「まあ、お待ちなさい、ロバート大佐」と、帆村は大佐をとめた。
「だが、このまま本艇へもどっては、わたしの責任がはたせない」
「いやいや、相手はとってもすなおにもどすとは思われません。というのは、あのギンネコ号にはゆだんのならぬ連中が乗組んでいると思われるからです。とても一筋縄《ひとすじなわ》ではゆきますまい」
「しかし帆村君。きみの知っている人格者が艇長をしているという話だったじゃないか」
「そうなんですが、その鴨《かも》艇長がきょうは姿を見せなかったのですから、ふしぎです。かれは病気でも、こんな重大なときには、われわれを病床へでも迎えて、会うほどの責任感の強い人物なんです。それがきょうはでてこないのですから、ゆだんはなりません」
帆村のことばが、たしかめられる時がまもなくくるのだ。あや
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