ゆずってもらいたいものもあるのでねえ。とにかく会ってから話そう」
「じつは、こちらから隊員のロナルド君とスミスとが出発して、そちらへ連絡にうかがったのですが、それがついたら、どうかいっしょになって、こっちへおでかけください。それなら、わたしも安心しますから」テッド隊長は、老博士の身の上を案じて、そういった。
「ありがとう。それならば、ふたりが到着するのを待っていましょう」
 そこで無電は、いったん切られた。その電話のおわるのを待ちかねていたように、僚艇《りょうてい》からの報告がどんどん隊長へとどけられた。『出航用意』が、もはや完全にととのったと知らせてきたものもある。また、すくなくともこれから五時間しないと、用意が完了しそうもないと、なげいてくる艇もあった。隊長は、そのような僚艇へは、用意完了の艇から応援隊をおくるように手配した。
 時刻はうつった。待ちうけているサミユル博士は、まだ姿をあらわさない。どうしたのであろうか。すると、三根夫が、テレビジョンの映写幕をさして叫んだ。
「あッ隊長。担架《たんか》が二つ、こっちへきますよ」
「なに。担架が二つとは……」見ると担架が二つ、ゆらゆらと揺れて、艇の出入り口に近づく。担架には誰か寝ている。しかし担架をかついでいる者の姿は見えない。ただ、長いシャツのようなものをひきずって、首も手足もない奇妙な形をしたものが、担架をとりまいている。そしてもう一つ、べつの奇妙な形をしたものが、担架のまえに立って、歩いている。それは、他のものとちがって、冠《かんむり》みたいなものがうえに輝いていた。
「先に立って歩いているのは、ガンマ和尚《おしょう》みたいですね」三根夫がいった。
「ガンマ和尚がね。いったいどうしたというのだろう」隊長はいぶかった。三根夫は、ガン人の姿がはっきり見えるようになる変調眼鏡を取りにじぶんの部屋へ走った。かれが、変調眼鏡を手にとって、もとの艇司令室のほうへ引返そうとする出合い頭《がしら》に、れいの担架が入口をはいってきた。
「どうしたんだ」
「なんだ、なんだ」と、隊員はあつまってきた。
「テッド博士にお会いしたい。ふたりの勇士を送り届けにきたのです。わしはガンマ和尚でござる」
 冠の下から、特徴のある声がひびいた。三根夫はこのとき変調眼鏡を目にあてることができた。三根夫は、ガンマ和尚の顔を見ることができた。れいのとお
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