皮バンド四本をじぶんの用には使わないで、外に垂《た》らした。そしてすばやく金具のところを結びあわせると、三根夫のほうを見て、皮バンドをたたいてみせた。
三根夫はりょうかいした。そして尻ごみすることなく、そのバンドの中へ両脚をつっこんだ。
「よろしい。出発だ」と、三根夫はバンドを両手でつかんだ。
「でかけますよ」ヘリコプターは吊り橋をはなれて、すうすうと下へまいおりていった。
それから下界へ到着するまでの時間の長かったことといったら、ハイロは座席からのびあがって、下にぶらさがっている三根夫の息づかいや、顔色を見ながらスピードを調節していったんだが、マスクも酸素管もない三根夫にとっては、この降下も楽ではなかった。かれはしばしば息がとまりそうになり、心臓はその反対にめちゃくちゃにはやくうった。でもかれはがんばりとおした。もっとも半分ばかりおりたあたりで楽になった。それから下はもちろんたいへん楽であった。
「やれやれ、助かった」
と、三根夫はため息をついた。そしてれいの大事な撮影録音機の包みが、ちゃんとじぶんの腰にぶらさがっているのをたしかめて安心した。下界《げかい》へおりると、さいわいにとがめられないで、地下へもぐることができた。すべり台式の降下路《こうかろ》にとびこんですーイすーイと地階を何階も通り越して、おりていった。そうしてやっとじぶんたちの居住区《きょじゅうく》までたどりついた降下路を街へでてみると、どうしたわけであろうか、人ッ子ひとり見えない。まるで、死んだ町のようであった。
「誰もいないよ。これはいったいどうしたのだろうかね、ハイロ君」
「わたしはおくれてしまったんですよ」
「おくれてしまったとは……」
「市民たちは、すでにめいめいの配置についてしまったのです。わたしは、大変におくれてしまった」
「でも、この町を空《から》っぽにしておくことは危険じゃないかね。やはり警備員をおかないと安心ならないと思うがね」
「いや、こんなところなんか、どうでもいいのですよ。市民たちの多くは、機関区のほうへいってしまったんですよ」
「機関区だって」
「ほら、三根夫さんをはじめに案内していって見せたじゃありませんか。最地階に近く動力室や機関室があったことを忘れましたか」
「ああ、あれか。どうしてみんなあそこへ集まるのかね」
「だってそうでしょう。わが星は、いま最大のスピード
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