と買えないんでしょうか」
「そういうものもあるらしいね。たとえば、ほら、あの店に並んでいる額《がく》にはいっている油絵。あれには値段をかいた札がつけてあるよ」
「あ、なるほど。三十五ドルと、値段がついていますね。地球の値段より高いですね」
「ほら、あのとなりには人形を売っている。あれにも値段の札がついている」
「ええ、ついていますね。これはおどろいた」
「三根クン。ぼくたちの目には見えない品物が店に並んでいるとは思わないか」
「えっ、なんですって」
 ふしぎなことを帆村がいったので、三根夫は目をぱちくり。
「たとえば、この店にだね、本がならんでいるが、それは店の棚の一部分だ。ほかの棚はがらあきだ。しかしはたしてがらあきなんだろうか。そこには、ぼくらの目には見えない本がぎっしりならんでいると考えてはどうだろうか」
「そうですね。そうも思われますね。本のならんでいるぐあいがへんてこですからね」
「もう一つ、きみは気がついていないか。店には、ぼくらには姿の見えない客が大ぜい、でたりはいったりしているということを」
「なんですって。姿の見えない客ですって」
「そうなんだ。その証拠《しょうこ》には、入口の扉を注意して見ていたまえ。ひとりでに、開いたり閉まったりしている。風もないのに、へんじゃないか。あれは、ぼくたちには見えないけれど、客がさかんにあそこから、でたりはいったりしているんだと解釈できやしないか」
「それは、りっぱな推理ですよ。きっと、それにちがいありません。なぜ、姿の見えない人間――人間でしょうか、とにかく、どうしてそんな姿の見えない者がたくさん動いているのでしょうか」
「それはかんたんにわかるじゃないか。この町の住民たちなんだ。つまり怪星ガン人だ」
「怪星ガン人? ああそうか。怪星ガン人は姿が見えないんですね。そういえば、あのなんとか和尚《おしょう》という人も、姿を見せなかった。みんなどうして姿が見えないんでしょうか。くらげみたいに、透明なんでしょうか」
 三根夫の頭のなかには、たくさんの疑問がわいてきて、とまらなかった。
「それは大きい謎だ、その謎がとけると怪星ガンの秘密もすっかり解けてしまうのだろう。ぼくたちは、これから推理の力をうんと働かせて、一分でもはやくその謎を解いてしまわなくてはならない」帆村の顔には、真剣な色がうかんでいた。


   五分間の機会
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