衰減《スイゲン》セザルヤ」
僕「ヤヤ衰減シタルヨウニ思ウ。予ハ一切ヲ直チニ其筋ニ急報スベシ。次回ノ通信ハ約二時間後、スナワチ午前四時ニ行ウベシ。貴局ノ都合如何」
相手「応諾。当方ハ此後ノ通信ヲ倹約《ケンヤク》セザルベカラズ。電源ノ消耗《ショウモウ》ト、更ニ急報スベキ事件ノ発生ヲ予期スレバナリ」
僕「デハ御機嫌ヨウ。貴君ノ忍耐ト奮闘《フントウ》トヲ祈ル」
[#ここで字下げ終わり]
僕は最後の符号を打ち終ると急いで立ち上った。壁にかけてある制服を下ろすと、手早《てばや》く之《これ》に着換えました。それから一散《いっさん》に家を飛び出して更けた真夜中の街路に走り出でました。火のように上気した僕の頬を夏の夜乍ら冷々《ひやひや》と夜気がうちあたるのを感じました。
僕は我国を覘《ねら》っている敵国人が、我国の人跡《じんせき》稀《まれ》なる山中に立て籠《こも》っていると聞いてさえ驚かされたのに、彼等はどこから運搬したものか大仕掛の土木工事《どぼくこうじ》を行い、而も工事は既に終ったという説をセントー・ハヤオなる人物から報ぜられて全く昂奮《こうふん》してしまいました。軍事施設について智識《ちしき》のない僕でも、次に何事が計画されているか、実行されるかという事を朧気《おぼろげ》ながら推察することが出来ました。これこそわが大日本帝国《だいにほんていこく》の一大事である。そしてこの一大事を一般国民に知らせることの出来るのは今のところ自分を除いては一人もないという事を考えると僕は重大なる任務のために、身体がガタガタ震え出すのを、どうしても我慢が出来ませんでした。
さて斯《こ》うして戸外《そと》に飛び出してはみたものの、第一番に何処に通報すべきであるか。一番手近な方法は、近所の交番へ訴《うった》え出ることでしたが、警官が簡単に納得して呉れるとも思われないし、それから先、警察署、警視庁、憲兵隊と階級的に軍事当局迄、通報されて行くであろう煩雑《はんざつ》さを考えると、交番へ訴え出ることを躊躇《ちゅうちょ》せずには居られませんでした。
僕は決心して近所のタクシーを叩き起しました。それから自動車を長舟町の憲兵隊本部へ飛ばせました。自動車は物凄い唸《うな》りをたてて巨大なる建物の並ぶ真夜中の官庁街を駆《か》け抜《ぬ》けて行きました。
軈て僕の乗った自動車は三十|哩《マイル》の最大速力を緩《ゆ
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