い眼をはしらせた。
“どうだナイフにつけてやった手紙の文句のいみが分るか”
 と、いいたげな竹見の目附であった。
「竹見の奴、このノーマ号が火薬船だから残るというが、火薬船なら、なぜ残らなければならないのか」
 こいつは、ちょっとばかり謎がむずかしい。丸本には、竹見の意中が、どうもよく分らなかった。が、それが分らないといって、ぐずぐずしていられないこの場であった。
 そのとき、丸本のかたをたたいたものがある。それは事務長だった。
「おい、丸よ。なにをぐずぐずしているんだ。はやく、その麻紐《あさひも》を、手元へ引《ひっ》ぱれ」
 そうだ、麻紐の一端が、脱船水夫の竹見の片手を、しっかりと捉えているのだ。竹見はこの船に居残るという。しからば、この紐をはなしてやらなければなるまい。といって、この場合、下手なはなしようをすれば、ノーマ号の船員どもにさとられるから、竹見の後のためによろしくあるまい。日ごろ、和尚《おしょ》さんのようにおちついている丸本水夫も、こうなっては、煙突のうえで、きゅうに目かくしされたように、狼狽《ろうばい》しないではいられない。
 でも、ぐずぐずしてはいられなかった。すすむ
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