、塩気があるのです。――さきに申上げた第一で、地底か海底かのどっちかときまり、次の第二で、塩分の多いという条件が入れば、結局その答は、ポーニンのやつ、海底でそのセメントをつかうのだということになるではありませんか」
「なるほど、なるほど。それでよく分った。たった二つの質問でもって、そのような重大事実をつきとめたとは、最近モロ警部はなかなか凄腕になったものだ」
長官からしきりにほめちぎられて、警部モロは、少々はなの先がむずがゆくなった。
「ところで、そのおくを洞察することが、肝要《かんよう》だて」
アンドレ長官は、モロをほめるのはいい加減にして、急に方向転換した。
「えッ」
「セメントを海底へもっていって、一体何をするつもりかという問題じゃ」
「はあ、なるほど」
「なんだ、モロ警部。君が感心していては、こまるじゃないか。そのところが、事件の核心をつくものだとおもうが、君はまだその方をしらべきっていないのかね」
「はあ、まだですが……」
といったきり警部モロは、ぼうのように固くなった。なるほど、あのセメントを海底へもっていって何をするつもりか。これはたいへんな大問題である。
サイゴン近し
謎のポーニン氏から、極東セメント商会の外交員を装う警部モロのところへ電話がかかってきた。
当時モロは、店にいなかった。
でも、モロがいなくてもポーニンからの電話には、すぐ出てくれるようにとの言伝《ことづて》が、官憲の名によってきびしく命令されていたので、その電話は、すぐさま警部モロと声音のにた秘書課のラームという社員の机上電話につながれた。
「ラームさん」と商会の交換手がいった。
「例のフランス氏こと実はポーニン氏から、モロ警部さんあてにお電話よ。しっかりして、応対してくださいね」
「わーっ、とうとう来たか。よし、おちつくぞ。――つないでもいいぞ」
間もなく、くりッとおとがして、ポーニン氏の声がはいってきた。
「ああ、もしもし。フランスですがね。あなたはこの間私のところへ来られた……」
「ああ、そうです、そうです。えッへん」
と、ラーム社員は、警部モロをまねて、わざとへんなせきばらいをした。
「ああ、わかりました」とポーニン氏は、へんなことに感心して、
「ところで、例の話のことですがね、すぐお出《い》でをねがいたい。場所はモンパリという料理店です。私の名を
前へ
次へ
全67ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング