、ぴくりと眉《まゆ》をうごかし、
「格安のセメントというと」
「さようですな、お値段のところは、まあ殆んど半額みたいなものでございます。まったく、ばかばかしい値段で……」
「それは、どうした品物かね。つまり品質のところは、どうだね」
「いや、その品質という奴が、すこし他のものとはかわって居りましてナ、そこのところが値段をお安くねがっているところでございますが、つかいみちによっては、りっぱに使えますので……」
 モロは、わざと、相手の求めているのを、知らんふりをして、自分に都合のいい方へ引張りこんでいく。なかなか達者なものだった。しかしポーニン氏も、二くせも三くせもある人物である。うまく警部の手にのるかどうか。
「値段のところは、まあどっちになってもいいんだが、普通品に比べてその品物の欠点というと、どんなことかね」
「実は二三の欠点がございます。まあしかし、そのうち主な欠点というのは、太陽の光線に会いますと、表面が白くなってまいります。つまり一種の風化作用が促進されるというわけですナ」
「ああ、太陽光線による風化作用か。そんなことはどうでもいいが、その他の欠点というのは……」
 モロは、腹の中で、にやりと笑った。
(うふ、ポーニン奴。太陽光線のことはどうでもいいといったが、するとポーニンのやつは、例のセメントを、太陽の光が届かないところで使うことを白状したようなもんだ。ふふふふ)
 だが、モロは、それを顔付《かおつき》には一向出さず、
「あとの欠点は、それほど目立ったものではありませんが――まあもう一つは、つまりソノ、潮風とか塩気に当りますと、くろい汚点が出てまいりますんで」
 といって、モロは、ポーニン氏の顔色を、じっとうかがった。


   恐ろしき予感


「黒くなるというのは、品質がかわるという意味なのかね」
 とたずねるポーニンの言葉つきには、真剣な色がうかんでいるようであった。
 モロは、腹の中で、ふふふと、微笑をきんじ得なかった。
(ははあ、ポーニンの奴は、買いこんだセメントを、海洋方面で使うんだな。とうとう大事なことを白状してしまったようなものだ。俺も、なかなか大したうでをもっているわい)
 だが、それはむねから下に、おさえておいて、
「いや、黒く色がつくだけのことで、べつに品質がかわるという意味ではございませんので……」
「もう他に、どんな欠点がある
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