すめよう」
と、長官アンドレ大佐は、大きく肯《うなず》いて、
「そこでじゃ。ポーニンが、しきりにセメントを買いあつめているというが、それは本当か」
「本当ですとも。まだ口約束だけのことですが、私の部下のしらべてきたところによると、こんなに有ります。このとおり、全部あつめるとたいへんな量です」
警部モロは、鞄の中から、いろいろな形の紙を重ねあわせた書類束をとりだした。
「ええと、これが五百袋。こっちの商会が、千二百袋。またこっちは、三百袋。……」
「合計して、どのくらいになるのか」
「ざっと勘定しまして、九百トンです」
「ふーン、九百トンのセメントか。相当の分量だ。そんなセメントを買いこんで、どうする気かな」
「当人は、今にセメントが値上《ねあが》りするから、買《か》いしめておくのだ、といっているそうです」
「すると、値上がりのところで、売ってもうけるつもりなんだな。すると、単に、目さきの敏《さと》い商人でしかないではないか」
長官アンドレ大佐は、そういって、卓子《テーブル》にあつまっている首脳部の人たちのかおを、ずーと見まわした。
「それは、どうもおかしいですな」
「ポーニンが、金|儲《もう》けだけに、うき身をやつしているとは思われませんねえ。イギリス大使からの内報をよんでも、単に、それだけの人物とはおもえない」
席上では、誰も、ポーニンが、今目さきの敏い商売だけをやっているものとは信じない。
「おい、モロ警部。報告材料は、もうこれで、おしまいなのか。想《おも》いの外、すくないじゃないか」
長官は、モロの方に不満そうなかおをむけた。
「ああ長官閣下。じつは、もう一人、報告をしてくるはずの者がいるのですが、とうとうこの時間に間にあいませんでした。すみませんです」
「もう一人というと、誰のことだ」
「は、それは……」
といっているところへ、卓上の電話が、じりじりとなりだした。
警部モロは、発条《バネ》じかけの人形のように、その受話器にとびついた。
「――なんだ、なんだ。ポーニンが、しきりに船をさがしているって、汽船を買いたいといっているのか。うむ、そいつは、すばらしいニュースだ」
警部モロは、電話で相手とはなしながら、長官アンドレ大佐に、仰々《ぎょうぎょう》しい目配せをした。
セメント問答
怪人物ポーニン氏の行動は、もはやそのままに見のが
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