だった。なおも後からフワリフワリと騰ってくるシャボン玉は、みるみる重なりあって、お互いに腹と腹とをプルンプルンと弾きあった。八十助は何だか自分の胸を締めつけられるような苦しさを感じたのであった。
 するとこんどはそのシャボン玉が、風に煽《あお》られるように、少しずつ騒《ざわ》めき立つと見る間に、やがてクルクルと廻りだした。その廻転は次第次第に速力を加え、お仕舞いにはまるで鳴門《なると》の渦巻のようになり、そうなるとシャボン玉の形も失せて、ただ灰白色の鈍い光を見るだけとなった。だんだん暗くなってゆく視野は、八十助の心臓をだんだん不安に陥《おと》しいれてゆくのであった。……
 そのとき、忽然として、泥土《でいど》の渦の中に、なにかピカリと光るものが見えた。なんだろうと、一生懸命みつめていると、その泥土の渦の中から浮び上って来たのは一つの丸い硝子《ガラス》器だった。その形は、夜店で売っている硝子の金魚鉢に似ていたが、内部は空虚《から》だった。
(金魚鉢なんだろうか?)
 と不審に思っていると、その鉢の底からパッと火焔が燃えだした。金魚鉢の上の穴からも真赤な焔《ほのお》の舌は盛んにメラメラと立ちのぼって、まるで昔の絵に描いた火の玉のようになった。八十助はどうしようもない不安の念に駆られて、アレヨアレヨと見つめているばかりだった。
 すると急に、火焔が上に動きだした。金魚鉢の中で、火焔だけが競《せ》り上りだしたのであった。見る見るうちに火焔の底が現れた。火焔はズンズン騰《のぼ》ってゆく。やがて金魚鉢の頂上のところ一面に焔々と火は燃え上った。焔の下は何だろうとよく見ると、そこには清澄な水が湛《たた》えられてあった。
 水は硝子のせいでもあろうか、淡《うす》い青色に染まっていて、ときどきチチチと歪《ゆが》んでみえた。その歪みの間から、何か赤いものがチロチロと覗いて見えた。
(何だろう、あれは!)
 チロチロと揺めく赤いものは、だんだんと沢山に殖《ふ》えていった。よくよく見ていると、それは小さい金魚の群であることが判った。
(金魚が泳いでいる!)
 可愛い金魚が泳いでいるのだ、しかし何という奇怪なことだろう。金魚のすぐ頭の上は水面だったが、そこには呪わしい紅蓮《ぐれん》の焔がメラメラと燃え上っているのだった。哀れなる金魚たちは、その焔に忽《たちま》ち焼かれて、白い腹を水面に浮き上ら
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