とを、すこしも誇るようなことがなかった。千二は少年ながら、そういういい父親を、できるだけ幸福にしてあげたいと思って、日頃からいろいろ考えているのだった。できるなら、ひとつ大発明家になって、父親をりっぱな邸に住まわせたい……
 そんなことを考えながら歩いていた千二は、とつぜん、
「おや!」
 といって、立止った。それはなにかわからないが、きいんというような、妙な物音を耳にしたのである。
 きいん。
 妙な物音だった。あまり大きな音ではなかったけれど、何だか耳の奥に、錐で穴をあけられるような不愉快な音だった。
「うーん、いやな音だ。一体何の音かしらん」
 暗さは暗し、何の音だか、さっぱりわからない。その音のしている見当は、どうやら頭の上らしいが、またそうでもないような気もする。
 その怪音は、やがて更にきいんと、高い音になっていったかと思うと、そのうちに、すうっと聞えなくなってしまった。
「あれっ、音がしなくなったぞ」
 音はしなくなったが、千二は、前よりも何だか胸がわるくなった。腐った物を食べたあとの胸のわるさに、どこか似ていた。千二は、さっき家を出る時に食べた、夜食のかまぼこが悪かった
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