そう言うと、丸木は二、三歩さがり、きっと戸をにらんだ。
驚いたことに、戸はめりめりと鳴った。今にもこわれそうだ。
丸木は、からだでもって、薬屋の戸にぶっつかる。
見ている千二は、びっくりした。
「丸木さん、およしなさい」
千二は、一生けんめい、丸木をとめにかかったが、丸木の耳には、もう千二の言葉などは、全く聞えないらしい。
そのとき、千二は、妙な音を聞いた。
ひゅう、ひゅう、ひゅう、ひゅう、ひゅう、ひゅう。千二は、その妙な音を聞きながら、
(あれ、あの音は、どこかで聞いた音だぞ)
と思った。しかし彼はすぐさま、そのことを忘れてしまった。そのわけは、丸木が、ついに、めりめりと薬屋の戸をおしたおしてしまったからである。
「あっ、乱暴者!」
「おい、みんな、力を借せ。こいつを取りおさえて、交番へつきだすんだ」
奥で顔をあらっていた店員たちも、どっと店にとび出した。そうして、十人近い人数で、一人の丸木をとりまいた。
だが、丸木はすこしも、ひるまない。長い外套の下から、足をだして、店員たちを蹴たおした。丸木に蹴られた店員は、だれでも、ううといったきり、二度とおきあがって来なかっ
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