丸木さんはいけないなあ。女の人をいじめたりしちゃ、いけないですよ。もし、死んでしまったら、どうします」
「死ぬ? はははは、死ぬことが、そんなにたいへんな問題かね」
丸木は、悪いことをしたと思わないのか、声高く笑った。
(ああ、悪い奴だ。丸木さんは、とんでもない悪人だ!)
千二は、あきれてしまった。
「おい千二、何をぐずぐずしているのか。金が手にはいったんだから、すぐボロンを買うんだ。さあ、一しょにいってくれ」
丸木の冷たくてかたい手が、千二の手くびをにぎった。千二は、丸木にひきずられるようにして、人影もようやく少くなった銀座の通を走った。そうして、例の薬屋の店先まで来た。その時丸木は、驚きの声をあげた。
「おや、この家だと思ったが、店がしまっている」
薬屋の店は、もうしまっていた。そうであろう。商店法により、午後九時を過ぎると、店をしまう規則になっている。
丸木は、ぷんぷんおこりだした。
そうして、薬屋の戸を、われるようにどんどん叩いた。
「もしもし、さっきの店員の人。金を持って来たから、ボロンを売ってくれたまえ」
店の中では、人の話しごえが聞えるが、だれも丸木にこたえ
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