」
「そうでしたか。しかし博士は、その家族の方のために、一滴の涙もこぼされないのは、どういうわけですか」
先生は、不思議そうにたずねた。
「ここで、いくらたくさんの涙をこぼしてみても、どうにもならないではないか。ええ、そうだろう」
「しかし……」
「まあ、お聞き。わしに言わせれば、人間が悲しんだり、それからまた体を楽にしたりすることは、死んでからあとのことにすればいいのだ」
「えっ、なんでしょう、今おっしゃったことは?……」
「これが通じないかなあ。つまり、人間は死んでしまえば、そのあとにはもう用事もなくなるし、たずねてくる者もない。そこで、死んでからゆっくり悲しめばいいし、また休んだり楽をしたりすればいい。生きている間に、悲しんだり楽をしようとしたりするのは、大まちがいというものだ。生きている間は、そんなことは後まわしにして、どんどん働くのだ。生きているうちにやる仕事は、たくさん残っている」
と、博士は、青年のような元気で言った。
65[#「65」は縦中横] 二つの月
大空艇は、ついに火星の領空に達した。
「着陸の用意だ」
と、博士はひとりでいそがしい。
火星
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