った。
「ここまで来れば、大丈夫だぞ」
先生は、やきつくようにかわいたのどを、手にふれる残雪をぶっかいて、口の中に入れ、元気を取りもどした。こうして、地獄沢を後に、掛矢温泉へたどりついた時は、もうすっかり夜は明けて、朝となっていた。
温泉旅館の主人の、弓形《ゆがた》老人は、庭に出て梅の枝を切っていたが、とつぜんそこへもどって来た先生の姿を発見して、おどろきのあまり、鋏《はさみ》を手に持ったまま、その場へ尻餅をついたほどだった。
「せ、先生。あ、あなたは、まあ、きのうから、どこにいっておいでだったのですか」
新田先生の体も、へたへたと庭にくずれてしまった。
先生の顔は、血の気を失って、まっ青だった。目の下には、黒い隈が出ていた。顔はもちろん、手足といわず服装といわず、血や泥にまみれて、どこの人かと思うくらいだ。
そうでもあろう。病後まだ幾日もたっていないのに、新田先生は、精神の上においても、また体の上においても、非常な苦労を味わったのであった。今まで、途中で、よく倒れなかったものである。
それというのも、先生が、一つには教え子の千二少年の身の上を心配し、また一つには、やがて地
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