のですね。それはどこの者です。そうして、まだ山を下りて来ないのですか」
新田先生は、ふかい雪をふみ分けて、あの火のそばへ上って行った者があると聞いて、たいへん興味ぶかいことに思った。
「それは、東京の人だと言っていましたがね。名前は、わしが聞いても、いや、いいんだと言って、言わないでがすよ。もっともその人はこの雪をふみ分けて、あの山を越え、向こう側の垂木《たるき》村へ下りて行くのだと言っていたから、こっちへは下りて来ないことになっていたんでがすよ」
「ほう、この雪の中を、山越しに垂木村へ下りるというんですか。そいつは風がわりな人だなあ」
新田先生は、何だか、この人のことが気になって仕方がなかった。
山の上に、ちろちろと、見えかくれする怪しい火に、新田先生は、たいへん興味をおぼえたので、その翌朝、先生は、掛矢温泉の老主人がとめるのも聞かず、一人山をのぼって行った。たいへんな元気であった。
新田先生は、山のぼりについては、いささか経験があったから、ありあわせの綱を借りたり、杖をこしらえたり、また蝋燭などをもらい、一夜ぐらいはすごせるほどの食料品も用意して、出かけたのであった。
山
前へ
次へ
全636ページ中263ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング