あった。しかも相手は、何者だか、まるっきりわからない。千二は、はあはあ息をついていたが、そのうちに何者かが、すぐ目の前をとおりすぎるようなけはいを感じたので、思いきって、
「やっ」
 とさけぶと、ここぞと思う見当に向かって、とびついた。
 すると、はたして手ごたえがあった。
「うぬ、もうにがさないぞ」
 千二は、どなった。そうして、しっかりとおさえつけた。その相手というのは、何者であったろうか。とにかくそれは、手ざわりだけでは、苔がはえた土管のような気がした。生き物のようではなかった。
 まったく妙な手ざわりである。苔がはえた土管のように、上はぬるぬるしていて、しかもたいへん固いのであった。それが、千二が闇の中でとらえた相手であった。その形はくらがりのことで、はっきり見えない。
「これは、間違えて、何か別のものをつかまえたのではないかしらん」
 とすこしの間、千二は、そう思った。
 しかし、千二のつかまえている土管みたいな怪物は、彼のおさえつけている下から、はねかえそうとしているらしく、しきりにもくもくと動いたし、また、しばらくたって、
 ひゅう、ひゅう。ひゅう、ひゅう。
 と、しのび
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