はないか」
 新田先生は、目をぱちくりした。
 全く何もないのであった。
「不思議だ、不思議だ。これは不思議だ」
 先生は、あまりの意外さに、つづけて同じ言葉をはいた。
 どう考えても変である。博士があれほど注意を払って、大切にしている部屋であるにもかかわらず、床ばかりで、何物もおいてないというのは、腑に落ちかねる。
 もっとも、鼠色によごれた壁には、背の高い柱時計がかけてあった。しかもその柱時計は、なぜかわからないが、並べて二つかけてあった。
 どっちも、たいへん古めかしい飾りがついている、振子形の旧式時計であった。
 振子は、どっちの時計の振子も、とまっていた。つまりうごかない二つの柱時計が、このがらんとした秘密室の留守番であったのである。
「まてよ、この二つの柱時計が、値打のある宝物なんかではなかろうか」
 新田先生は、柱時計がかかっているその下まで出かけていって、それをていねいに何度もよく見たのであった。
 たしかに古くて、時代がかったものであったが、作りもそうりっぱなものではない。むしろ安時計と見てもいいものだ。
「変だなあ。なんとなくわけがありそうな時計だけれど、どうもわけ
前へ 次へ
全636ページ中161ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング