は、手に汗をにぎって、怪物体を見つめていた。
 すると、かの怪物体は、にわかにその光る姿を消してしまった。
「おや、どうしたのか」
 と、千二がいぶかる折しも、どぼうんという大きな水音が聞えた。大地がみしみしと、鳴ったくらい大きな水音だった。
「ああ、とうとう湖水の中におっこってしまった!」
 千二は、驚きとも喜びともつかない声をあげた。
 それっきり、かの怪物体は見えなくなった。天狗岩も、また元の闇の中に消えてしまった。
「ふうん、今のは夢じゃなかったかな」
 千二は、自分の顔をつねってみた。痛かった。たしかに痛かった。では、夢ではない。
 千二は、鉄管をはい出した。もう大丈夫だろうと思ったから。
 果して、もう大丈夫であった。さっきのように、気分が悪くなりはしなかった。するとあの毒気のようなものは、やっぱりあの怪物体からふきだしていたものにちがいない。
「湖水の中におっこって、どうしたかな」
 千二は、そろそろ天狗岩の方へ、にじりよって行く。
 うす桃色に光っていた怪物体が、天狗岩の上から姿を消すと、つづいて起る大きな水音! 千二少年が、暗闇の中を這って天狗岩に近づいたのは、その怪
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