話を、地下鉄電車の中で聞いたと、おっしゃるのか。
ふむ、なるほど。
そのことばづかいから察すると、そう言って自分一人で赤くなって興奮していた人というのは、からだの小柄の、頭の髪の毛も、顎《あご》のさきにのばした学者鬚も、みんな真白な老紳士だったであろう。
それに、ちがいないと言われるか。
ふむ、そうであろう。やっぱり、そうであった。その老紳士こそは有名な天文学者で、さきごろまで某大学の名誉教授だった蟻田《ありた》博士なんだ。
さきごろまで名誉教授であったと言ったが、つまり蟻田老博士は、今では名誉教授ではないのだ。博士は、さきごろ名誉教授をやめたいと願い出て、ゆるされたのだ。
そういうことにはなっているが、その実蟻田老博士は、奇怪にも大学当局から、辞表を出すように命令され、むりやりに名誉教授の肩書をうばわれてしまったのだ。そんなことになったわけは、ほら例の「火星兵団」にある!
あのように「火星兵団」のことを、世間に言いふらさねば、大学当局は、なにもあの老齢の蟻田博士から、名誉教授の肩書をうばうようなことは、しなかったであろう。
まあそれほど、大学当局では、老博士が言いふら
前へ
次へ
全636ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング