わるくてしかたがなかったが、王城内の火星人は、なかなか礼儀もこころえており、また新王や副王からの言いつけもあって、千二たちに対し、たいへん、ていねいにしていた。
千二は、このとき、ふと、たいへんなことを思い出したのであった。彼は、新田先生のそばへよると、小さいこえで、
「あのう、先生。もう時刻は、すぎたのではないでしょうか」
「なんだね、時刻がすぎたとは」
「先生、わすれているのですか。モロー彗星が地球に衝突する時刻は、もうすぎたのでしょう。地球は、どうなったでしょうか。こなごなになって、それから……」
千二は、そのあとが言えなかった。そうして悲しくなって、思わず先生の胸に、あたまをうずめてしまった。
「そうだねえ、地球は……」
先生も、そのあとが、言えなかった。
すると、蟻田博士が、この有様を見て、二人のそばへ、よって来た。
「お前たちは、なにをめそめそやっているのかね。ロロ新王に、おめでとうを言う日が来ているのに、泣いたりして……」
先生は博士に言った。
「千二君も私も、地球のことを思い出して、悲しくなったのです。今ごろは、地球はモロー彗星のために、粉々になって、宇宙に飛んでしまったろうというので……」
すると博士は、はたと手をうち、
「おお、そのことか。わしは、君たちに、言うのを忘れていたよ」
地球は、一体どうなったか。
「博士は、私たちに、なにを言われるつもりだったのですか。なにを言うのを、わすれていられたのですか」
新田先生と千二とは、蟻田博士に、息をはずませてたずねた。
「ああ、そのことだ。よし、わしが言うよりも、ロロ新王にねがって、王城の天文台へのぼらせてもらって、地球がどうなったか、それを見せてあげよう」
博士は、心得顔で、すぐさま、ロロ新王に、そのことを言った。ロロ新王はもちろん、それを承知した。
「じゃあ、天文台へ、のぼらせていただこう。まあ、それまでは、だまって、ついて来たまえ」
博士は、なかなか地球の最期について、二人に話をしてくれない。
千二たちが、博士について、天文台の方へいくために、王城の広間を横ぎって、歩いていこうとしたとき、博士の前に、とつぜんとび出して来たものがあった。
「蟻田博士の大うそつき」
大きなこえで、その怪漢は、どなった。
見ると、それは、めずらしや、佐々刑事であった。彼は、とつぜん王城の中へ、走りこんだものと見える。それはいいが、防寒服も着ていなければ、酸素かぶとも着ていないのだった。むちゃな話である。
「おお、佐々刑事だ」
「ほう、これが佐々刑事か」
「蟻田博士、あなたは地球が……」
と、再び佐々刑事が、ことばをつごうとした時、彼はにわかに、まっ青になって、よろよろと、よろめいた。そうして先生と千二が、かけよるよりも先に、王城の床の上に、どうと、たおれてしまった。
蟻田博士は、すぐに床にひざをつき、佐々刑事の手をにぎった。その時、火星人の医師がかけつけ、博士にかわって、すぐ手当をすると言った。
博士は、あとのことを頼んで、先生と千二の方へ目配《めくば》せをした。
千二は、博士が目くばせをするので、たおれた佐々刑事のこともしんぱいだったが、博士のあとにしたがって、天文台の方へ階段をのぼっていった。
そのとき、千二は、そばの新田先生に、
「どうしたのでしょうね、あの佐々刑事は……」
すると先生が言った。
「佐々刑事は、火星のボートを分捕ったと放送していたが、今まで、そのボートの中にがんばっていたのだろうね。そうして蟻田博士が来たという話を聞いたので、ボートの扉をひらいて、とびだして来たわけだろう。ずいぶん、がんばりやさんだなあ」
「なるほど。元気がいい人ですね」
「いずれ、あとで、おもしろい話を、たくさん、聞かせてくれるだろう」
階段をのぼりつめると、りっぱな円形の広間へ出た。すばらしい高い天井、うつくしいかべ、そうして、見事な望遠鏡が、天蓋《てんがい》の間から、夜の大空へ向いている。
「千二、新田、望遠鏡で見なくても、肉眼でよく見えるから、外廊下へ出よう」
博士は、扉をあけて、外廊下に出た。
火星には、今、夜の幕が下りているのであった。この天文台は、森のうえから、わずかばかり、首をのぞかせているのだった。だから、この外廊下からは、森の高い梢越しに、荒涼たる火星の夜景が見える。
「ほら、あれを見なさい」
博士が、そう言って、天空にきらきらと輝く星をゆびさした。
「ええあれは、何という星ですか」
「あれは地球じゃ」
「えっ、地球ですか。地球は、モロー彗星に衝突されて、まだ、あそこに、かけらでもが、のこっているのですか」
千二は、ふしぎそうに聞いた。
「いや、あれは地球のかけらではない。かけらどころか、地球は、ちゃんとしているのだ」
「え
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