しくなって、ひとりでに顔が赤くなった。
 矢の方向へずんずん歩いていくと、一つの大きな岩山にぶつかった。しかし入口はまだ見えない。千二は、もっと向こうかも知れないと思って、その岩山をよじのぼったが、
「おや、もうこの先は海だ」
 と叫んで、がっかりした。
 海へ出ては、いきすぎだ。
 千二少年は、岩山をまた下りて後もどりした。その途中、岩山のどこかに割目でもありはしまいかと念入にさがしたのであるが、割目などは一向に目にはいらない。そうして、そのうちにとうとうもとの砂原におりてしまった。
「これはおかしい。どうしても、この大きな岩山の、どこかに入口がなければならないのだが……。はて、困ったなあ」
 千二は、しばらく岩山をじっと見上げていたが、そのうちに思い出したことがあった。
「ああ、そうだ。博士から聞いたところでは、このカリン岬の下の洞窟内には五つの扉があって、それを開くには呪文を言えばいいのだ。そうだ、あの呪文をどなって歩いたら、どこかの地の底で、扉があく音が聞えるかもしれない」
 千二は、呪文をとなえるなんて昔話のようで、ばかばかしいことだと思ったが、ともかくそれをやってみることにした。
 あの呪文はどういうのであったかしら。
 千二は、はじめてそれを聞いた時、たいへんむずかしい呪文だと思ったが、博士から、いくどもそれを聞いているうちに、なんだかおもしろい口調なものだから、口の中でくりかえしているうちに、おぼえてしまったのである。
 ロラロラロラ、リリリルロ、ロルロルレ。
 たしか、この通りであった。
 千二は砂浜に立ち、岩に向かって、
「ええと、ロラロラロラ、リリリルロ、ロルロルレ」
 と、叫んだ。
 さあ、岩山の入口が開くかと、千二は目を皿のようにして岩山をながめまわしたが、あてがはずれて、岩山はもとのままであった。
「だめだねえ」
 と千二は言ったが、まだ失望するのは早いと思い、またその岩山をのぼりはじめた。
 千二は、岩山のてっぺんにのぼって、そこでもう一度呪文をとなえてみた。
「ロラロラロラ、リリリルロ、ロルロルレ。さあ、どうだ」
 呪文のききめはあったかどうかと、千二は耳をすました。すると、岩の中から、ごうごうという機械がまわるような音が聞えだしたではないか。
「あ、何かはじまったぞ」
 と、千二は、岩の上に腹ばいとなり、岩の中から聞える音が一体何の音であるか、それをたしかめにかかった。
 ところが物音の正体がわかる前に、別のおどろきがやって来た。それは、千二のからだが、ぐっと横に動きだしたのであった。まるで大きい、じしんのようであった。
「あっ、岩が動きだした」
 岩山のてっぺんが割れて来た。そうして大きな穴があく。階段が見えだした。
「しめた。とうとう呪文がきいて岩が割れたぞ。ここをおりていけば、洞窟へいけるにちがいない」
 千二は、からだを起すと岩穴の中にとびこんだ。中は、思いの外広かった。そうして千二がとびこむと、岩はまた元のようにぴたりと閉じてしまった。そうして、地下から聞えていたごうごうという音が、ぴたりと、とまってしまった。
 千二は、階段を下りていった。
 すると、その下は第二の扉で行きどまりになった。
 千二は、もうおどろかない。さっそく扉に向かって、また例の呪文をとなえた。
 すると、また機械のまわるような音がして、第二の扉はすべるように岩の中へはいった。内部は、どこから光が来るのか昼のように明かるい。そうして机や椅子や機械が見える。そればかりではない。蟻田博士と新田先生が、こっちを向いて立っていたので、千二は夢かとばかり喜んだ。
「おう、千二君じゃないか。どこへ、いっていたんだ。しんぱいしていたよ」
 新田先生が、かけだして来て、千二の手をぐっとにぎった。
「ああ、先生」
 と言ったまま、千二は、そのあとを言うことが出来なかった。火星の上でまよい子になり、これからどうしようかと思いながら、きみのわるい洞窟へはいっていったところ、そこで思いがけなく、新田先生たちに、あえたのであった。こんなうれしいことはなかった。
 博士も、奥から千二の方を見て、にこにことわらっていた。
 千二は、手みじかに彼が丸木にさらわれたことや、その丸木が、いまペペ山を地底から、ばくはつさせるために、じまんの地底戦車隊へ出動命令を出したことなどを話したのであった。
 それを聞いていた新田先生は、いみありげに、蟻田博士の方へ顔を向けた。
 すると博士は、千二のそばへやって来て、その肩へ手をかけながら、
「千二君。お前は、その地底戦車隊が、いよいよペペ山の下を、ほりはじめたところを見たかね」
 と聞いた。千二は首をふって、
「いや、僕は、そこまで見ていなかったのです。丸木が、近づく戦車隊の方に夢中になっているすきをうかがっ
前へ 次へ
全159ページ中155ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング