博士は、髪のかたちをととのえ、すっかり若くなって、座席についた。先生も千二も、それを見てにこにこしている。いよいよ一同の意気は高い。
 映写幕には、外がうつっている。まっくらな中に、うす桃いろの丸木艇が、うつっている。博士は、目盛盤を動かして、ピントを合わせた。
 丸木艇が、くっきりと、映写幕の上にうつった。
「丸木艇は、いよいよ、火星へにげてかえるつもりだな」
 と、博士は、うめくように言った。
「博士、どうなさいます」
「どうするとは?」
「丸木艇に、おいつけますか。おいつけないときは、地球へ戻るのですか、それとも、あくまでも、丸木艇をおいかけていくのですか」
「どこまでも、追いかけていくのだ」
 博士は、はっきり言った。
「え、すると、火星までいくのですか」
「そういうことになるかもしれない、もしこっちが、追いつけなければ……」
「はあ」
 先生は、おどろいて、博士の顔を見直した。
「博士、火星へいくのですか。おもしろいですねえ。一度、いってみたいと思ってたんです」
 千二は、にこにこ顔であった。
 先生は、笑う気持になれなかった。火星旅行は、地球の上の飛行機の旅のように、かんたんにはいかない。第一、火星の気候は、たいへんちがっている。それから、すんでいるのは人間ではない。植物の進化した生物だ。彼らは、丸木みたいに、すぐれた知識をもっている。そういう火星人のたくさんすんでいる中へ、三人でいって、どうするのであろう。いわんや、丸木は、自分たちを恨んでいるのではないか。そう思うと、火星行は、いやな気がする。
「博士、火星までいって、大丈夫ですか」
 と、先生は、それを聞かないではおられなかった。
「大丈夫かどうか、わからない。しかし、今となっては、火星であろうが、どこであろうが、丸木艇を追いかけていくしか、方法がないのだ」
「そうでしょうか」
「丸木は、地球に対して、はじめて戦いをいどんだ敵だ。この宇宙の侵入者を、ここで撃ちおとしておかなければ、地球人類の大恥である。わしは、あくまで、丸木艇を撃墜し、丸木を、やっつけてしまうのだ」
 博士の決心は、岩よりもかたい。火星人と戦って、どちらが勝つか負けるか、わからないのである。しかも、博士は、丸木艇を追って、進撃するのであった。
「博士、火星へでも、どこへでも、いきましょう。先生もいきましょう」
 千二は、新田先生を、はげますように言った。そう言われて、先生も、いやとは言えなくなった。
「もちろんですとも。どこへでも、いきますよ。われわれは、大宇宙にある第一線部隊ですね」
「うむ、そうだ。だから、どんなことがあっても、負けられんのじゃ」
 博士は、拳をふりあげて、言いはなった。
 千二は、この時、望遠鏡のプリズムをうごかして、大空艇の後方を見わたした。
「ああ、見える。地球が見える」
 千二は、思わず、ため息をついた。
 見える見える、地球が、大きな球のかたちをして、雲にとりまかれつつ、宙に浮いている。雲の間から地表が見える。地表は、まぶしいまでに、明かるく光っている。アメリカ大陸らしいものが見える。なんという壮観であろう。
 雲が、ぱっと光ったように見えた。とたんに、雲のさけ目から、へんな青白い光りものが見えた。それはモロー彗星だった。
 丸木艇を追って、大空艇は、なおも、まっくらな空間を、まっしぐらに飛んでいく。
「博士、こんなに追いかけているのに、一向追いつきませんねえ」
 と、先生が言えば、蟻田博士は、
「うむ、困ったものじゃ。実を言えば、これぐらいの速度を出すエンジンで、十分だろうと思っていたが、今となっては、不十分だとわかった。今さら言っても仕方がない」
 博士は、設計に不十分な点があったことを、すなおに認めた。
「じゃ、いくら追いかけても、だめでしょうか」
「いや、そうともかぎらない。丸木艇が、もし故障でもおこしてくれれば、しめたものだが……」
「なるほど、そうですか。しかし、丸木艇も、なかなか調子よく、にげていくじゃありませんか」
「うむ、敵ながら、感心していたところだ。もうあと百キロばかり間をつめることができれば、ガス弾がとどくんだがなあ」
「ほう、あと百キロですか」
 すると、千二が、測距機で、彼と我との間を読んで、
「ええ、丸木艇は、百三十キロのところをとんでいますよ」
「ふふん、そうか。あと百キロぐらい、宇宙の大きさにくらべると、何でもないがなあ」
 と、先生はくやしがった。
 その時、博士は、めずらしく座席から、立上った。
「博士、どこへいかれます」
「おお、わしは、ちょっとここを留守にするよ。新田、お前、しばらくここをあずかっていてくれ。すぐに戻ってくるから」
「承知しました。しかし博士は、どちらへ……」
「ちょっとした用事じゃ。すぐ戻る」
 博
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