うな形をした減圧箱《げんあつばこ》の中に、だらしなく眠っている。――
朝日が、天井窓からさしこんで来た。何の音も聞えない。静かな朝であった。人間たちの、さわぎをよそに、丸木はすっかりいい気持で眠っているのだ。
するとその時、天井からさしこんで来た光が動いた。
朝日の光が動いたのではない。光の中に、別の人がはいって来たのである。
影法師の人間が、減圧箱の上に影をなげかけた。大きな頭がうつった。その頭には、不思議にも鬼の角のようなものが生えていた。
鬼か?
鬼でもなさそうだ。角は、二本よりも、もっとたくさんあった。そうして束ねた髪の毛のように、ぶらんぶらんゆれていた。
やがて一本の梯子が、上から下りて来た。そうして床の上についた。
その梯子を、つたわって、下りて来る者があった。さっき影を見せていた、あの鬼のような人物だった。
黒いマントを着ていたが、下に下立《おりた》ったところを見ると、それは外でもない千二少年であった。
ああ、千二少年!
千二は、今までどこにいたのであろう? 今、千二はただ一人で下りて来た。だが、かわったすがたをしている。黒マントはまだいいとして、たいへんかわっているのは彼の頭部であった。
角が生えているのかと思ったが、そうではなかった。千二は、妙なかぶとのようなものを、頭にかぶっているのだ。そのかぶとのようなものは、きっちり千二の頭にはまっていたが、そのかぶとの上には、あちらこちら螺旋《らせん》のようなものがぶらさがっていて、千二が歩く度にゆれた。
とつぜん、あらわれた千二少年!
妙な形のかぶとのようなものを、かぶっている千二少年!
その千二は、少し様子がおかしかった。目と言えば、うすく半分だけあいている。歩くかっこうと言えば、頭の方が先に出る。操り人形みたいである。
その千二少年は、よろよろとよろめきながら、怪人丸木の眠る減圧箱のそばによった。
「ねえ、隊長。もう起きる時間ですよ」
と、千二は火星語ですらすらと言った。
丸木は、それが聞えないのか、まだ、眠っている。
千二は、もう一度同じような調子で言った。
すると、眠っていた丸木は、ぶるぶると長い手足をふるわせた。と思うと間もなく、丸木は大きな頭を持ち上げて、ぐらぐらとふった。それは、まるで猫がひる寝から目がさめて、背のびをする時のかっこうに、よく似ていた。
「おお、もうそんな時間か」
丸木はそう叫ぶより早く、体をぐっとちぢめると、床の上を目にもとまらぬ早さで這出した。そうして、あっと思う間もなく、かたわらにおいてあったドラム缶のような、胴の中にとびこんだ。胴はたちまち左右から寄って、ぱちんと、しまってしまった。
すると、胴中に生えていた手足が、急に勢いよく、ばたばた動き出した。そうして、かたわらにおいてあった首の方へ手をのばすと、それをひょいと肩にのせたのであった。――とたんに、完全な丸木氏が出来あがってしまった。
不思議な丸木の朝の日課であった。
千二少年は、少しも驚く様子がなく、そばにじっと立っていた。
不思議な日課を終えた丸木は、減圧箱の中から出て来た。
そこで彼は、減圧箱を足でぽんと蹴った。
すると減圧箱は、ゴム風船がちぢむ時のように見る見る小さくなった。そうして誰もさわらないのに、ポストぐらいの大きさのものになると、ことことと音を立て、ひとりで部屋のすみのところへいった。そこでは、どうしたわけか、かたりと音がして、その折りたたまれた減圧箱を、部屋の隅に、動かないようにくくりつけてしまったのであった。――火星人が持って来た宇宙艇には、このような不思議な働きをするものが、いくつもあった。
「おう、千二。きょうはきげんはどうかね」
丸木はそう言って、千二のそばへ寄って来た。
「はい、上きげんであります」
千二は、あざやかな火星語でそう答えた。
丸木は、手足をばたばたと動かした。それは、うれしいという気持をあらわしているのだった。
火星人は植物だから情心《なさけごころ》などはなかった。しかし丸木は、火星人の中でもすぐれた人物だったので、このごろ情心というものを自分の心にも植えてみようと思った。丸木はそのために、千二を使っているのであった。
千二少年は、あれからずっと丸木のため、きびしく監禁されていたが、少年は一度は大きな悲しみに沈み、その後あきらめたのか、ほがらかになった。とにかく、このいつわりのない少年の心が、怪人丸木を、たいへん動かしたものらしい。
(自分も、この少年のように、情心を持ちたいものだ!)
そう思った丸木は、それから後、いつも千二少年をそばにおいて、少年の悲しみや、笑いや、それからいきどおりや、かわいがることなどを手本にして、自分もそのような感情を湧かそうと、つとめたのだっ
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