先生が首をかしげている時、高声器からの声は、また一段と声をはり上げて、
「……火星のやつに、気を許すな。火星のやつは、どんなひどいことでも、平気でやるぞ。ゆだんするな。火星のやつは、ありゃ動物ではないんだ!」
火星の人間は動物でない――などと、へんなことを言出した。
「おお、あれは佐々刑事の声に違いない!」
と、新田先生は、すっかり興奮してしまった。
「何じゃ、佐々刑事? この、しおから声を出している人間は、あのがむしゃら刑事じゃったか」
博士はちょっと驚いた様子だ。そうして、「ふん、おもしろくもない」とスイッチをぷつんと切ってしまった。とたんに、佐々の声は聞えなくなった。
「あっ、スイッチを切っちゃいけません。もっと私に、その先を聞かせて下さい」
新田先生は、博士に迫って行った。
「こんなものを、聞くことはないよ。今さらこんな世まよいごとを聞いて、何のたしになる! モロー彗星は、もう間近に迫っているのじゃ」
博士の口ぶりから考えると、佐々刑事の電話を新田先生に聞かせたくないらしい。博士は、切ってしまったスイッチを、再び入れようとはしないのだった。
新田先生は、老いたる師の博士をつきのけてまでも、佐々刑事の宇宙電話を聞く気にはなれなかった。次の機会を待つよりほか仕方がないであろう。
だが、このまま引っこんでしまうのは、たいへん惜しかったものだから、
「博士、今の電話は、火星から伝わって来たもののように思いますが、違いますか」
博士は、そうだとは言わなかった。が、そうでないとも言わないところをみると、たしかに火星からの通信に違いないと、先生はさとってしまった。
「博士。火星人が動物でないと言うのは、ほんとうですか。動物でなければ、一体、何ですか」
「ふうん、そのことだ。が、人間には、とてもむずかしすぎる問題で、言ってもわかるまい」
45[#「45」は縦中横] おそろしい仮定《かてい》
実に奇怪な話ではある。火星人は、動物でない――と、佐々刑事は言うのだった。
蟻田博士は、それについて、いくら新田先生に説明してもわかるまいと言って、話をしようと言わない。
新田先生は、ぜひともこの重大な、なぞの言葉を解いてしまいたいと思うのだった。これは博士の力を借らずに、自分の力で解いて、博士にぶっつけるより外はない。
そこで新田先生は、自分で、このなぞの言葉にぶっつかった。
(火星人は動物でない――と言う。では、いったい何であろうか)
動物でない――と言うと、植物か鉱物か二つのうちの一つであろう。しかしそれはあまりに変なことだ。
なぜと言って、人間は動物であり、犬や猫も動物である。動物は、文字で書いても、動くものと書く。だから動物は、動けるのである。植物や鉱物は動けない。
そうなると、佐々刑事の宇宙電話も、とりとめのないことをしゃべったとしか考えられない。動物でなければ動くことが出来ないのだから……。
だが、待てよ。
ここに一つ考えのこしたことがある。鉱物が全く動かないことはわかっているが、植物の方は、全く動かないものばかりとも言えない。たとえば、蟻地獄と言われる草や、蠅取草《はえとりそう》のようなものは、自分で動いて、蟻とか蠅とかを捕えるという話である。アミーバという下等植物は、自分で体の形をかえて水中を泳ぐ。
またいつだか見た文化映画で、『植物の生長』というのがあったが、植物の蔓《つた》が、まるで蛸《たこ》の脚《あし》のようにぐらぐらと動きまわって、どこかにまきつく棒とか縄とかないかと、しきりにさがしもとめている有様がうつっていた。その映画を見ると、植物がまるで動物とおなじように見えた。
そんなことをだんだん考えて来ると、植物は全く動かないものだとは言いきれなくなる。さあ、問題はそこだ!
(アミーバも動く、蠅取草も動く!)
火星人の正体を、ほり出そうとして、新田先生の推理はつづく。
動物でない火星人!
(では、火星人が、アミーバや蠅取草のような動く植物であったとしたら、どうであろうか?)
先生は、考えをそこまで持って来た。そこには、恐しい大驚異の世界が開かれていた。そうだ! 動く植物! 火星人なるものは、進化した動く植物だと考えては、どうであろう!
「ああ、驚くべきことだ。ああ、恐しい世界だ」
と、新田先生は、思わず口に出して叫んだ。
そばで蟻田博士は眠れるロロとルルを見まもっていたが、とつぜん新田先生が声を出したので、後を向いて先生をにらみつけた。
「おい、静かにせんか」
新田先生は顔をまっ青にして、興奮のためにふるえていた。
(わかる、わかる。火星人を、進化した動く植物だと仮定して考えると、これまでに疑問だったことが、大分うまく解ける!)
蟻田博士は、火星人は動物でないと
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