は、これまでのいろいろなことが思い出されて、いたいくらいだった。
だが、先生はいつまでも、めめしくはなかった。地球の壊滅は、もう間近にせまっているのである。めめしく涙ぐんでいる時ではない。
「博士、この火星人たちは、どうしてここにいるのですか」
と、先生は質問の矢を博士に向けて放った。
「ああ、この二人のことかね」
博士は、長くのびて、額に落ちかかる白い髪をかき上げながら、先生の方を向いた。
「この二人は、ずっと前わしが火星に行った時、助けて連れて来てやった火星人なんだ」
「え? 博士は火星へ行かれたことがあるのですか」
先生は、びっくりして尋ねた。
「おや、そのことはまだ話をしてなかったかね」
「それはうそです。博士は、人間の力では火星へ行けないと言われたことが、あったではありませんか」
と、先生はつっこんだ。
「うむ、たしかにそれは言った。しかしそれは、一般の人間をさして言ったのじゃ。わしの力は人間以上だ!」
と、蟻田博士は、いばって言った。
人間以上!――という言葉には、二様の意味がある。わしは、すぐれた人間だというのか、それともわしは人間ではないぞというのか、どっちであろうか。
新田先生には、そのどっちの意味か、わかりかねた。
といって、まさか博士に、
(博士は、人間ではないのですか?)
と、聞くわけにもいかない。だから先生は、この大きなうたがいを持ったまま、しばらく問題を先へ持ちこす外なかった。
「この二人を助けたとおっしゃったが、なぜ博士は助けられたのですか。一体この二人の素姓は何者ですか」
と、先生は尋ねたのである。
「ああ、この二人の素姓かね。わしが助けた時は、二人とも子供だった。二人は、女王ラーラの子供なんだ。ラーラには、百人ばかりの子供があったが、今残っているのは、多分このロロとルルの二人だけだろうと思う」
博士は、すこぶる奇妙な話をはじめた。先生は、博士がでたらめを言っているのではないかと思った。なぜかといって、そのラーラとかいう女王に、百人ばかりの子供があったという話であるが、そんなにたくさんの子供が生めるであろうか。
「博士、ほんとうですか、その話は。百人の子供を生むなんて、あまり不思議すぎますよ」
博士は、仕方がないという顔で、首を左右にふった。
「ふん、お前にはそれが信じられないかも知れん。いや、むりもない。だが、それはほんとうのことなのだ。――その女王ラーラは、非常にすぐれた者じゃった。我々地球の生物のように、やさしい情ある心を持っていた。だから女王は、地球の人類と、たがいに手をとって、力になり合おうと考えた。それが、他の火星人どもの気に入らなかったのじゃ」
「火星国に、せっかく地球人類と手をにぎってやっていこうという女王ラーラが現れたのに、多くの火星人は大反対をして、とうとう女王を殺してしまった。女王だけではない。百人近い女王の子供たちも、ほとんど全部殺されてしまったのだ」
と、蟻田博士の不思議な話は続く。
「ほう、ずいぶん残酷な話ですね」
「残酷は、元来、火星人の持って生まれた悪い性質なのだ。わしは、女王ラーラとその子供たちが死ぬところを見たが、いやもう気の毒なものじゃった。火星人は、女王たちを、森の中につくった大きな牢にぶちこんだ。その牢は、上から見ると、円形で、高い壁にかこまれ、そうして天井がなかった」
「ほほう」
「女王たちを、この天井のない牢にぶちこむと、火星人たちは、今度は水をそそぎ入れた」
「水の中に、おぼれさせるのですね」
「そうではない。水は、わずか十センチぐらいの浅いものだったが、その後で投げこんだものが、恐るべきものじゃ」
と、博士は、その時のことを思い出してか、肩先をぶるぶるとふるわせた。
「何です、博士。そのおそるべきものと言いますと……」
新田先生は、博士の答えをもどかしがった。
「それは、一種の藻じゃ。見たところは、たいしたことのない緑色の藻じゃが、その藻こそ、恐るべき繁殖力を持ったやつじゃ」
「繁殖力?」
「そうじゃ。つまり藻がふえるのじゃ。その藻は、水の中では大へんな勢いでふえるのじゃ。しかも、そばに他の生物がいると、それにとりつき、その生物の体から養分をすいとって、どんどん繁殖していくのじゃ。恐るべき寄生藻だ」
と、蟻田博士は、そこでまた体をふるわせた。
「ああ、藻をつかって殺すなんて、始めて聞きました。火星の上には、とんでもない植物があるものですね」
新田先生は、ため息をついた。蟻田博士の語り続ける女王ラーラと、その子供たちの最期ほど風がわりな、そうして気の毒なものは、ちょっと外になかろう。
博士は、なおも語り続ける。
「――女王ラーラとその子供たちは、四日目には、その恐しい藻に包まれて、全く死んでしまったのだ」
「あ
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