て子供の方に近づいた。
女の子たちは、石けりに夢中になっていた。その時、長マントの一隊が近づいたことも知らないようであった。はっと気がついた時は、もう遅かった。
「あら、おじさん。線の上を通っちゃ、ひどいわ」
「あら、あたしの石をけとばしてさ。いやあよ」
長マントの連中は、なにも言わなかった。そうして一列になったまま、そこを通って行った。
彼らが通っていった後には、チョークでかいた石けりの白い輪はあった。石けりの石も、そのままそこにあった。しかし、どうしたわけか、今の今まで、そこに楽しそうに遊んでいた五、六人の女の子の姿は、どこにも見えなかったのである。
長マント隊は、そ知らぬ顔をして、ずんずん向こうへ歩いて行く。だが、別に子供をつれている様子も見えない。ただ彼らのマントが、風もないのに、どうしたわけか、へんに波うつのであった。誰かそこへ行って、マントの下を見てやるとよかった。
こうして、かわいい女の子たちが、火星人にさらわれてしまったのである。
火星人の帝都侵入のことは、いち早く放送されもし、新聞でも注意するように大々的に書きたてたが、不幸にも、帝都の市民の多くは、そんなばかばかしいことがあるものかと、信じなかった。だから、火星人の人間狩は、案外うまくいったようである。
こんなこともあった。
或るお嬢さんが、駅の裏手のさびしいところで、立木を背にして、誰かを待っていた。すると、いつの間にか、その後へ、例の長マントの火星人が三人あらわれた。
あたりは大変さびしかったので、待っている人のことで、心をうばわれていたこのお嬢さんだったが、きりきり、きったん、きったんと言う機械的な音が、じぶんの後に聞えたので、はっと気がついて振向いた。
「あれっ」
お嬢さんは、とたんに悲鳴を上げた。そうでもあろう。同じ服装の三人の長マントの男が、すぐ自分の後に立っていたのだから。
お嬢さんの悲鳴は、一ぺんきりで終った。それとともに、お嬢さんの姿は、かき消すようになくなっていた。
お嬢さんの悲鳴は、かなり大きかったので、駅の建物から若い駅員が走り出た。そうして声のした方を、きょろきょろと見廻した。しかし、そこには女の姿はなかった。ただ三人の黒い長マントの紳士が、廻れ右をして、向こうへ歩いていくだけであった。
「もしもし、もしもし、お待ちなさい」
駅員は、三人をあやしいと見てとって、後から呼びとめた。ところがあやしい三人は、それが耳にはいらないのか、ずんずん向こうへ歩いていく。
「もしもし、お待ちなさいと言ったら」
若い駅員は、かけ足で三人の後に追いついた。三人は、一せいに後を振向いた。おやというようなかっこうをした。一つのマントが、ぱっとひるがえったように思われた。とたんに、若い駅員の姿も消えうせた。
火星人の人間狩のことを書きつづけていくと、大変恐しくもあり、またおもしろいが、きりがない。
人間狩をする火星人は、うっかりしている人間ばかりを襲ったので、かなりたくさんの人間が、さらわれていながら、その割に、被害報告が、すぐには警視庁へは集らなかった。それがますます火星人をして、人間狩に成功させ、彼らを喜ばせたのであった。
「火星人は誰にもそれとわかる、黒い帽子に、黒い長マントを着ています」
と、拡声機からは、特別公示事項の放送が、ほとんど絶えまなく行われた。しかしそれは、もう午後になってからのことで、かなりたくさんの人間が、さらわれてしまってから後のことであった。
「でありますから、黒い帽子に黒い長マントに、黒い眼鏡の怪しい人物を見かけたら、すぐに、もよりの交番へ駆けつけるなり、大声でそれを知らせながら火星人と反対の方へ走り、なるべく狭い横町に駆込んで下さい」
などと、妙な注意が、しきりに放送されたのであった。
だが、中には、案外そんなことに注意していない人もあった。
その夜のこと、或るさびしい町の電柱の下に、一人の紳士が、倒れていた。彼は、真赤な顔をしてわけのわからぬひとり言をぶつぶつしゃべっていたから、これは酒を飲んだ酔払であるに違いなかった。
そこへ黒マントの紳士が三人、ひょっこりあらわれた。三人は酔払紳士のそばに、例のごとく近づいていった。
「あははは、くすぐったい!」
と、かの紳士の声がしたかと思うと、もう次の瞬間には筋書通りに、紳士の姿は消えてなくなっていた。とうとう火星人にさらわれてしまったのだ。やれやれ気の毒、気の毒!
そのよっぱらい紳士は、まことに、奇妙な目にあったと、後に人に語ったことであった。それは、彼が、火星人のためにさらわれて行った経験談であった。
あの時、彼は、かなりよっぱらっていた。だけれど、まだいくぶんは気がしっかりしていた。、彼は、かなりよっぱらっていたこともおぼえていた
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