人の一人に、胸ぐらを取られて、びっくりした。
「こら、らんぼうし給うな」
と、先生は彼の手を振りはらったが、彼はしっかと握って、放さなかった。その時、先生は火星人の手が、まるで鋼鉄の棒のように固くて、そうして冷たいのを知っておどろいた。
そのらんぼうな火星人は、先生をなぐりつけるつもりか、一方の手を振上げた。その時、火星人の腕のつけねに妙な音がした。ぎりぎりぎりと、何か歯車で鎖を巻くような音だった。
「何をするっ」
先生は、必死になってそれを防ぎながら、火星人の目を見た。
火星人の目は、じっと遠いところを見つめているようであった。ガラス玉のような、うつろな動かない目であった。
そのくせ、火星人の腕はのびて、先生の頭をめがけて、はげしくうちおろすのであった。
「あっ!」
先生は、受損じて、頭が割れたかと思った。そうして、ふらふらと倒れそうになったので、先生は前後の考えもなく、火星人の胴中《どうなか》に抱きついた。
すると、火星人はあわて出したようであった。そうして急に弱くなって、ごろんとその場に倒れた。
新田先生は、火星人を下に押さえつけたまま、ふうふうと苦しい息をはいた。何かどなりつけてやりたかったが、あまりに息切れがはげしくて、声を出そうにも、声が出なかった。
下になっている火星人は、両手、両足を動かして盛にもがいた。
ひゅう、ひゅう。ぷく、ぷく、ぷく。
火星人は、妙な声をあげてうなった。
新田先生は、この時火星人の体について、重大な発見をした。
それは、ひゅうひゅうぷくぷくと言う声が、火星人の口から出ていないで、のどのあたりから出ていることだった。
先生は、おどろいて火星人の、のどを見た。すると火星人の首は、もう少しで、肩から外れそうになっていた。
やっぱり、首なしの生き物なのだ。火星人は――。
ひゅうひゅうぷくぷくの声は、首と肩とのつぎ目のあたりから、もれて来るのであった。
首の外れる生物! 首なしの生き物!
そんな不思議な生物が、この世の中にあっていいものか。
気がついて、先生はもう一度火星人の目を見直した。
目は相かわらず、ガラス玉のように遠いところを見つめていた。そうして少しも動かないのであった。まるでつくりものの目だ。
火星人の、のたうち廻るのを押さえつけながら、先生は苦しい息の下に、なおも敵の体に気をつける努力を忘れなかった。
先生は火星人の口を見た。
口は半ば開いたきりであった。そうしてうるおいがなく、動かなかった。もちろんそこからはげしい息づかいも聞かれなかった。どう考えても火星人は、こしらえものの首を肩の上にのせているとしか思われない!
(おどろいた。火星人のやつめ、こしらえものの首をのせているらしい!)
先生が下に組みしいているこの火星人だけが、そうではないのだ。丸木だと思われる怪人も、この前、首をころりと落したことがある。
先生は急に、気持が悪くなった。首がなくて、生きていられるなんて、不思議なことだ。とても、ほんとうだと、思われないことだ。
だが火星人は、まさしく首なしで生きているのだった。それをしょうこ立てるように、ちょうどその時、先生の下でもがいていた火星人の首がもげて、ころころと向こうへころがって行った。
「あっ、とうとう首が落ちた!」
あまりの奇怪さに新田先生は、もうたまらなくなって火星人の腹の上から飛びのこうとして上半身をおこした。その時であった、先生がもう一つの、おどろくべきものを見たのは……。
それは、一体何であったろうか?
新田先生が、上半身をおこした時、先生は火星人の胸についている大きな二つのボタンに、ぐっと睨まれたように思ったのである。
ボタンに睨まれる?
そんなことがあっていいであろうか。とにかく、確かに大きな二つのボタンに、睨まれたような気がしたのであった。そうして確かに、そのボタンはぐるぐると目玉のように、動いたのであった。
「ああっ」
先生は思わずさけび声を立てて、もう一度その目玉のように動く大きなボタンを見た。すると、どうであろう。奇怪にも、今の今まで見えていた二つのボタンは、あとかたもなく消えて、火星人の胸は前のように、ドラム缶のように固い表面があるきりだった。
この時火星人は、す早くはね起きた。
気味の悪い火星人と組みうちをやって、新田先生は、いろいろと不思議な目にあった。火星人の首が、今にも落ちそうになっていたことや、その火星人の声が、肩のあたりから聞えたことや、それからまた、火星人の胸に、目玉のように動く大きなボタンがちらと見えたと思ったら、また直ぐなくなってしまったことなど、どれ一つとして、不思議でないことはなかった。
火星人の体には、いろいろの、ひみつがあるらしい。少くとも地球の人類が持っ
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