があったため、ありもしないそんな変なものを見たように、報告したのであろうということだった。わしも、正直に言えば、その友人が、変になっていたのだと思っていた。が、これはどうだ。その友人の報告書に書いてあったとおりの形をした宇宙艦が、今レンズの向こうに見えているではないか。しかも、さかんにうごいている!」
博士は、すっかりその宇宙艦に、気をうばわれている様子であった。
「博士、その宇宙艦というのは、どこの国で作ったものですか」
「作った国は、どこだというのかね。さあ、わしはまだよく研究していないが、さっき話したわしの友人は、ドイツの空軍研究所が、試験的に作ったものであろうと書いてあった。もっとも、ドイツの当局では、そんなばかな話はないと、さかんにうち消していたがね」
「博士は、あの宇宙艦が、ドイツで出来ると思っておられますか」
「いや、そうは思わない」
蟻田博士は、望遠鏡の中にうごめく宇宙艦を、しきりに観察しながら、新田先生と話を続けている。
博士は、その宇宙艦が、いつだか博士の友人のドイツ人が報告書にのせ、人々の注意をうながした宇宙艦だと言った。新田先生は、その宇宙艦は、ドイツ人に作れるかと、重ねて尋ねたが、博士は、いや、ドイツ人には作れないであろうと答えたのだった。
そこで、新田先生は、急に頭の血管が、ちぢまったように感じた。先生はせきこんで博士に尋ねた。
「じゃあ博士、あの宇宙艦は、どこの国で作ったものだとお考えになるんですか」
「うむ。さあ、そのことだが……」
博士は、すぐには、返事をしなかった。そうして、なおもしきりに、望遠鏡のレンズを動かしつづけた。
「博士、それは一体、どうなんでしょうか」
「うむ、待ってくれ」
と、博士は、苦しそうにうめいた。
新田先生はいらだって、もうだまっていられない様子だった。彼は、博士の洋服をつかむと、
「博士、私は、あの宇宙艦が、どこで作られたか、知っているのです」
「なんじゃ、お前が知っているって。ほほう、そんなはずはない。なにをお前は、ばかばかしいことを言出すのじゃ。あははは」
「いや、博士、私は申します。あれは、火星国でつくられた宇宙艦なのです。そうして、あの宇宙艦は、これまでにたびたび、この地球にやって来たことがあるのです。いかがですか、博士」
「ややっ、どうしてお前は、そんなことを知っているのか」
博士は始めて望遠鏡から目を離すと、新田先生の顔を、穴のあくほど、じっと見すえたのであった。
博士の目は、ゴムまりのように大きく開いて、新田先生を見すえた。
「おい新田、お前はどこでそんなことを聞きこんだのか。それともお前は、おかしくなったのではないか」
博士は、新田先生をつまらん弟子だと思い、いい加減にあしらって来たのであるが、とつぜん博士の心にちくりと痛い質問を投げかけたばかりか、その果に、宇宙艦が火星国でつくられたことを、新田先生に言いあてられて、びっくりした。
それもそのはずであった。宇宙の秘密、殊に火星の事情などは、蟻田博士以外に誰も知る者がないと思っていたのに、とつぜん新田先生にあばかれてしまって、博士のおどろきは、一方《ひとかた》でなかった。
博士は、元来世間の事情にうとい人であったから、天狗岩事件が新聞に出たことなどには、気がついていないらしかった。
新田先生は、そこで改めて、千二少年の話、火星のボートが天狗岩へ来たこと、それから怪人丸木が殺人事件を起してまで、ボロンの壜をうばって逃げたことなどを、すっかり博士に話をしたのであった。
博士は、たいへん真剣な顔になって、一々、ふむふむとうなずきながら、新田先生の話に耳をかたむけた。
話しおわって、新田先生は、ここぞと思って博士に重大な質問を放った。
「博士は、丸木という怪人物について、なにか、お心あたりはありませんか」
「ああ、丸木――とかいったね、その怪人物は。さあ、わしは、なんにも知らないよ」
博士はそっけなく答えたが、新田先生の睨《にら》んだところでは、博士は、その怪人物丸木のことについて、たいへん心をひかれている様子であった。
「丸木、丸木か? おい、新田。その丸木なる者は、どのくらいの大きさだったかね」
「大きさ? ああ、背丈のことですか」
「そうだ、丸木の背丈のことだ」
と博士は、新田先生に言われて、質問を言直した。
「丸木の背丈――と言って、別に変ったことはないようです。中背というところじゃ、ありませんかね」
「ありませんかねとは、はっきりしない言葉だね」
「だって博士、私は、丸木を見たことがないのです。千二少年から聞いた話なんですからね」
「おお、そうか。なるほど、なるほど。そうして、その千二という少年は、今どこにいるのか。すぐ、ここへ呼んでもらえまいか」
博士は、丸木の話
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