「そうだ、そうだ。全くその通りだ。地球の人類にとって、こんな大きな不幸はあるまいなあ」
「そこで、大衝突をやって、地球は粉みじんになってしまうのですか」
「そうだとも。モロー彗星の芯《しん》は、地球の大きさにくらべて八倍はある。これは、さしわたしの話だ。そうして、その心は、どんなもので出来ているか、まだよくはわからないが、とにかく非常な高熱で燃えている、重い火の塊《かたまり》だと思えばいい。そういうものが、地球の正面から、どんとぶつかれば、地球はどうなるであろうか。衝突後も元のままの地球であるとは、もちろん考えられない」
「地球は、幾つかに壊れるのでしょうね。日本と、アメリカとが、別れ別れになったりするのでしょうね。しかしわれわれ人類は、そうなっても、ちゃんと生きておられるでしょうか」
 新田先生は、恐しい想像の中に、思わずおののいた。
「いずれ日本とアメリカとが、別れ別れになると言っても、それが二つの小さな地球の形になるとは思われない。今のところ、わしの考えでは、地球は粉みじんになって、そうして、いくつかの火の塊になってしまう」
「えっ、火の塊ですか。するとわれわれ人類は。……」
 蟻田博士は、モロー彗星が地球にぶつかった時は、地球は幾つかの火の塊になってしまうであろうと、大胆な見通しをつけた。
「そうなれば、もちろん、地球上の生物は、一ぺんに焼けてしまって、ただもやもやした煙になってしまうだろうなあ」
 蟻田博士は、平然と、まるでひとの事のように言う。
「博士、それでは、大衝突をすると、地球上の人間も、牛も、馬も、犬も、猫も、みんな死にたえてしまうと、おっしゃるのですか」
「そうだよ」
「やっぱりそうですか。地球上のありとあらゆる生物が、死滅するのですか。ああなんという恐しいことだ」
 新田先生は、もう立っても坐ってもおられなくなって、椅子の上に、やっと自分の体をささえた。
「蟻田博士。ほんとうにそんな恐しい時が来ますか」
「もちろん来るさ」
「ああ、なんとかしてその大衝突を、防ぐことは出来ないものでしょうか。だって、余りにも悲惨です」
「相手は、地球だのモロー彗星だ。その大衝突を防ぐことは、とても出来ない相談だ。そんな大きな物体を、右とか左とかに動かす力を、人間が持っていないことは、お前もよく知っているだろう」
「それにしても、それでは、出来事が余りに悲惨
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